彼の匂いのするタオルケットに丸まってまどろんでいたところに、かさりと紙の擦れる音で意識が浮上した。重たい目を開けて音のする方を覗いてみれば、硬そうに見えて本当はとても手触りのいい茶色の癖毛がベッドの端にかかっている。どうやらベッドにもたれて本を読んでいるらしい彼の後頭部に、レッドはそっと無意識に手を伸ばした。
 レッド、と、ちいさく語尾を上げて呼びかけてくれる声で朝を迎えられるなんてオレは幸せ者だなあ――と靄がかった頭で幸せボケのようなことを考える。
「起きたか?」
「ん……、」
 それでもまだ眠りが足りないのは事実で、せっかく彼とそろっての休日だったのに昨夜は添い寝だけで終わってしまった後悔すらあるというのに、常日頃酷使している体はまだ睡眠を求めているようだった。まわらない呂律に、まるで酔っているみたいだなと思う。
「今日は休みなんだろ。もう少し寝ておいた方がいい」
「ぐりー、ん、は」
「なんだ」
「いつからー……」
「さっき起きたばかりだよ」
 だからそんな顔をするなとぶっきらぼうに言う人は確かに服こそ着替えているが、うっすらと額にかいた汗からしてまだ顔も洗っていないようだった。よかったぁと、これまたへにゃりとした情けない声が出る。休日の朝、一番無防備な時間に彼と会ったのが自分だけという、おかしな優越感。こんなことを口にすれば、ぽかりと殴られてしまうのだが。
「だめだ、ねむ、」
「時間になったら起こしてやるから」
「うー」
 分厚い文芸書をぞんざいな扱いで床に置いた指先が、甘やかすみたいにレッドの髪を撫でる。彼に触れられるようになってからレッドなりに手入れをするようになった髪の感触を楽しむように、二度、三度と指が往復して、眠気を誘う。
「おやす、み……」
 ああ、おやすみ――と笑みを含んだ声が背中を押し、逆らえないそれに促されるままに目を閉じた。甘えるのも甘やかすのも苦手な彼はこうして時々、夢うつつのオレが忘れていることを期待して甘やかしの練習をしている。







ゆめうつつ



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