どうやら自分はゴールドに惚れたようだ、と、グリーンは一つ頷いて見せた。全治約三ヶ月。そのうち三週間ほどを過ごしている、トキワシティ公営の病院内でのことである。
「……それをどうして僕に言うかな」
「だってレッド、お前は俺が好きなんじゃなかったか? 思い違いならそれは一時の恥として忘れてくれれば良いし、そうでなかったら今後とも望み薄の想いを抱いていられるよりは俺の罪悪感も軽くて済むし」
「つまりは諦めろと」
「ほらみろ、思い違いじゃなかった」
「人の話を聞こうかグリーン」
 ひくりと頬を引き攣らせて見せる幼馴染に、今度は首を傾げる。もちろん、解った上で。
「不毛な恋より一寸先の幸福を追求した方がお得だぞ、レッド」
「それはそっくりそのままお返しするよ。わかってるの? 相手は男で後輩だよ」
「お前だって男で幼馴染じゃないか」
「第一に僕はグリーンが好きだ。けどゴールドはそうじゃない。グリーンが頷いたらすぐに幸せ家族計画に強行突破できる僕と違って、ゴールドはまず口説き落とすところから始めないといけないんだよ? それこそ、不毛な恋より一寸先の幸福だろ」
「……なあレッド」
「なに?」
 すっかり第二の居場所と化してしまった感のあるベッドの横、パイプ椅子に深く腰掛けながら微笑むレッドに視線をやる。長引く入院生活で怠けが見え始めているグリーンと違い、羨ましいほどに健康的な体つきをしている。けれど、ゴールドに魅入られたような感情は沸いてこなかった。やっぱり自分は、あの後輩にだけ惹かれているのだ。
「突っ込む箇所が多過ぎてどうしていいかわからなくなった。とりあえず幸せの行を否定してもいいか?」
「なんで僕はお前が好きなんだろうね……」
 そして否定するのはそこからなのかとレッドが項垂れる。それはそうだろうとグリーンは心から断言できる。
「レッドを選んだとしてゴールドがいない未来に幸せがあるとは思えない」
「少しは言葉を選ぼうかそこは」
「ゴールドに振られたからって、レッドに走ることも有り得ないわけで」
「選択肢の一つに入れてくれてもいいと思うんだけど」
「ああそうか、最悪の場合のことも考えないと。振られたらどうしようか。氷漬けにして、氷の棺を抱えたままシロガネで暮らすのも悪くないよな?」
「すっきりした微笑を浮かべながら言うことじゃないよ。それどこの雪女」
 あとシロガネは頻繁に天気が変わるから死体が痛むよと言うレッドに、それもそうかと納得する。それによく考えてみたら自分はくるくると生気に溢れるゴールドが好きなのであって、物言わぬ体を抱いても切ない喜びだけだろう。どうせなら生きている彼が良い。
「ならそれは却下だな。ジムの地下改装しようかな……」
「地下室はたしかに浪漫だけどそう簡単にはいかないからね? 世話も大変な上、ふたり分の食事を怪しまれないように用意しないと駄目、勝手に脱走したりしないか毎日ひやひやしてないといけない。相手が少し名の知れた子なら案外すぐにばれるものだよ」
「もしかして経験者か? 治安維持の義務を持つジムリーダーとして見過ごせないぞ?」
「嬉々として手錠出してこなくても大丈夫だよ、いざとなったらグリーンを監禁しようかと思って考えた問題点だから。あんまりにもリスクが大きいから止めたけど」
「レッドはお茶目さんだなー。はは、ナイスジョーク。やれるもんならやってみろ?」
「だから中止したって言ってるだろ。割に合わない」
 肩を竦める幼馴染は役に立つようで立たないなあとグリーンは唇を尖らせた。こういう特殊な嗜好はレッドの得意分野のような気がするのに、中々建設的な意見が出てこない。
「素直に泣き落としで行くかー」
「ああ……。一番利きそうだよねそれ……。特に、ゴールドみたいなタイプには」
「その前に既成事実作っとくべきかな? 酔わせてベッドに転がせばなんとかなるか?」
「いい加減にその質問は僕に対して酷だと気付け」
「気づいてなかったらやってねえしなあ」
「……ですよねー」
 遠い目をするレッドを横目に、さあどうしようかと作戦を練る。酔わせる云々はまあ、最終手段だ。それまでに順当に口説き落として、なんとか自分に惚れさせないといけない。
 だが、望みがないわけでもない。尊敬の念だとしても、ゴールドは自ら「グリーンがいなくなったら泣く」と宣言している。それだけ好意を抱かれていることは確かなのだから、あとはそのベクトルをどうにか自分と同じ方向にひっくり返してやればいいだけだ。力技なら自信があるし、色仕掛けとまではいかなくても自分の持ちうる要素を総動員すれば、あるいは一年がかりでなら動かないものが動く可能性だってある。やらないよりやったほうが何倍もいい。手が尽きたら尽きた時に考えれば良いわけで。
「男口説くことになるとは思わなかったよ」
「それが僕じゃないっていうのがまた腹立つよね」
 どこに嫉妬しているのかも最早わからないレッドの肩をぽんぽんと叩きながら、今後の展開を練った。お見舞いに来てほしいと電話をかけたら、優しいあの後輩はジョウトから飛んできてくれるだろうか。










所謂ひとつの似た者同士




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