グリーンさんは可愛いですよねえ、と、歌うようにコトネが言った。
「――それは俺への牽制か? コトネ」
「そうですよ。うちの大事な地祇さま持って行かれちゃ適いませんもん」
 前の地祇さまみたいに、と言い添えてにこりとコトネは笑い、ほらあんなに村のみんなと仲良しなんですからねと続けた。
 コトネの指先を追ってみれば、厳しい冬を越すための祈願として村を挙げての祭りを行うべく、村人にもみくちゃにされているグリーンがいる。今日ばかりはキュウコンも張り付いているわけにはいかないのか、グリーンの傍には俺の式神の姿しかない。
「……何故かカナデの姿も見えるんだけど」
「カナデくんもうちの村の一員ですから。森にご両親と住んでいますけど、害獣を追い払ったり、作物の収穫を手伝ってもらったり、村ぐるみで仲良しさんです」
「知らなかったよ」
「ほんにグリーンさん以外に興味ありませんね、レッドさん。絶対に、あげませんから」
「グリーンが俺を選ぶかもしれないじゃないか」
「あはははは、有り得ません!」
 きっぱりとした笑顔でコトネは言う。本当に、言葉を選ばない娘だ。こんなのがもう少しで社務所に巫女として勤務し始めるというのだから、胃に穴があかないかが真剣に心配になってきたよ。ひどい話だ。
「――……もし、ですよ。もしグリーンさんが、レッドさんを選んだら」
 コトネは金色に染まった目で俺を見た。ヒビキの血縁にあたる彼女も、グリーンの影響を受ける体質を引き継いでいる。
「あなたも、グリーンさんを連れていきますか?」
「俺がここの神主で、グリーンがここの地祇である限り、有り得ない話だね」
「そうじゃありません。もしもあなたがここを離れることがあって、もしあなたが、グリーンさんより先に死ぬことがあった。そのときの話です」
「先、ね」
「私たちの村は決して豊かじゃありません。水害も多くて、畑だって小さい。地祇さまの加護なしでは生きられない。でもそれ以上に、みんな、グリーンさんが大好きなんです。おっちょこちょいで天然で、そのくせ強くて自信家。そんなグリーンさんが好きだから、みんなで、神主のいない社を大事に守ってきたんです」
 だから、と、金色の瞳に睨みつけられる。
「あなたは、私たちの神さまを連れていきますか?」
 懸命な瞳に俺は、失礼な話だけどちょっと笑いそうになってしまった。連れていく。そうだね、連れていくのもいいかもしれない。けど、たぶん俺は。
「しないよ。それは、グリーンが決める事だ」
 無理強いをした時点で、俺の好きなグリーンの表情を二度と見られなくなってしまう。そんな気がするから、俺は選ばない。
「もしグリーンさんが、レッドさんについていくと決めたら?」
「そのときは俺の都合をつけてここに残る。どのみち、グリーンになにかを捨てさせたら死ぬほど後悔しそうだからね。辛い表情のグリーンを見るのは一回で十分」
「惚気ですか?」
「が、できる関係になれたらいいなと思ってる」
「そうですか。がんばらないでくださいね」
 やっぱりコトネは言葉を選ばなかった。それでも彼女は満足そうにしていたから、俺の回答はどうやら、及第点だったようだ。
「ほら、レッドさん。グリーンさんが呼んでいます」
「本当だ。じゃあ、そろそろ行こうか」
 人ごみの中から手を振って俺達を呼ぶ狐のもとに、小走りで近づいていく。大きな勢いで振られている手と一緒に、ご機嫌な様子で尻尾が揺れていた。








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