拝殿に戻った俺とグリーンの後を、ウインディとキュウコンが静かについてくる。床に座り込んだ俺達の周りに長々と体を横たえている二匹のおかげで、七輪を炊かなくても十分暖かい。でも心は寒い。なんでって、思いっきり殴られたのがまだ響いているんだよ。 横に座ったグリーンは落ち着かない様子でそわそわしていたので、力を入れて襟元を引っ掴み、抱き締めた。というよりは、抱きついた。こういうとき目立ってしまう骨格の差が憎い。びくっと体を震わせたグリーンの頭から耳が飛び出す。ついでに尻尾も一本、彼の背後で揺れていた。敏感に反応したキュウコンから殺気が放たれる。今くらいは勘弁してよ。 「な、なんだよっ……」 「たぶん、やきもち」 「……焼き餅?」 「ごめん僕が悪かった」 一気に和やかになってしまった場の空気を戻すべく、彼を抱きしめる腕を強くする。おずおずと俺の袖口をつかむ指先の白さが眩しい。好きだなあと思うのは、こういう、ふとした瞬間の彼の美しさとか可愛げのあるところだ。 「あのさ、」 「うん」 「騙してたつもりはなかったんだけど」 「でも、言わなかったよね」 う、と、グリーンが喉を詰まらせる。俺はにやにやと口元が緩むのを止められなかった。してやったり、だ。手記を読み終わったときのもやもやを思えば、これくらい許されてしかるべきだろう。 「君と前の土地神が顔見知りだっていうのは、わかってたよ。それはグリーンも隠そうとしてなかったし。――まさか僕が完全に手記を読んでしまうなんて、思わなかった?」 「――……俺と兄ちゃんでも読めなかったものを、人間のレッドが読めるなんて考えないだろ、普通。っつーか、なんで読めるんだよ。おかしいだろ。初めの方は読めても、最後なんてほとんどあいつの創作文体だぞ。漢文でもねえし、ましてや大和言葉でもねえし」 「法則さえわかればなんとかなったよ」 漢文でもない、とグリーンはいったが、それは少しばかり偽りが混じっている。あれはれっきとした漢文だ。ただし、文体が古すぎて今はもう誰も使わない、いわゆる死語の一つ。やっぱり、よっぽどの教養人じゃないと書けないことに代わりはないのだけど。 「昔話、してよ。グリーン」 彼を憎からず思っている俺にはあまり面白い話じゃないだろうけど、俺はグリーンの首元に顔を埋めながら強請った。くすぐったそうに身を捩る仕草にすらどきどきした。 |