オレと旅人
ほう、と、細い鳴き声をあげてすり寄ってきた色違いの梟を撫で、船をこぎ出した意識をなんとか引きとめることにゴールドは全力を尽くした。
「なんだ、眠いのなら眠ればいいのに」
「先輩に火の番任せて、ぐーすか寝息立てられませんって」
「三年はやい旅立ちのやつなんか大勢いるんだ、その調子でこの先いいように使い走りにされるんだな、お前は」
「不吉な予言やめてもらっていいッスか!」
ぶるり、と感じた悪寒を気のせいだということにして、人の悪い笑みを浮かべる旅の道連れを見やった。エンジュシティで出会った彼とは不思議な縁が続いて旅をしている。とても一三歳のゴールドより一つ年上には見えない童顔で、成長期なぞどこかへ消えてしまったと言われた方が納得できる小柄な体。ふわっとした茶色の頭髪ときらきらした琥珀色の目が特徴的だが、それ以外には強いてあげるほどの個性はない。――バトルが鬼畜並みに強い、という、その一点だけは、個性的であったが。
「次はアサギっすね」
「そうだな。アサギは舶来の面白い物が山ほどある」
「そうなんですか? アサギ、すげえ」
「なに他人事みたいに。これから行くとこだろうが」
「すいません、正直先輩にくっついてたら大丈夫かなって思ってます」
「今度、タウンマップ頭っから覚えさせるからな、お前」
くつりと楽しそうに笑った人は、眠っている間に野生のポケモンに襲われないようにと、ポケモン避けの香木を燃やしている最中である。円を描いてドーム型に香りが拡散する特徴を持っており、ドームの中にいる手持ちのポケモンに害はない。悪戯心を抑える効用があるだけで、野生ポケモンに対してもこれといって刺激的なものではないこれはけむりだまの原料でもあり、野宿の多いルートを目指すトレーナーならば必須と言えるものだった。ポケモンセンターを利用できるルートを通るのが一般的だが、そこはそれ、ゴールドも年頃の少年である。少しばかり冒険染みたことをしてみたい、そんな魂胆であった。それに笑って付き合ってくれる同行者でよかったと心から思う。
「あと二十分くらいで香りが焚けるから、お前、先に寝とけ」
「いいッスよ。それくらいなら起きていられます」
「無理して起きていられるほうが迷惑だ。寝ろ」
「――はい、それじゃあ寝ます」
「おやすみ、ゴー」
すっかり寝袋の中に入ってしまえば、空には満点の星空が浮かんでいるのが見えた。そういえば、彼と、グリーンと出会ったのはもっと曇った空の下だったことをゴールドは思い出した。カーキ色のジャケットの上にシャワーズと、こんもりした雪を乗せたこの人は、曇り空のエンジュシティでピジョットに乗って現れたのだったっけ。