生まれも育ちもこの島。
死んだのもこの島。
サッカーと運命に呪われて命の最期をこの島の森で過ごした。
だから僕が死んだとき、僕には何も温かいものなんてなかった。
最愛の妹も、大好きなサッカーも、自分自身までも亡くした。だから僕はこの島が嫌いだ。


それなのに、君は少しだけ
僕にこの島を好きだと思わせたくれた。


∴∴∴



ある日のことだった。僕はいつものように木の枝の上で休んでいた。
ここの枝はこの島にたくさんある枝でも特にお気に入りだった。
ここで寝そべると、見晴らしの丘に咲く綺麗な花を一望できる。

「ここの花、とても綺麗…。」

この島では珍しい女の子の声。どうして女の子がこんな所に…?と思いながらも、いったいどんな子だろうと気になって体を起こした。
すると丘に一人女の子がいた。
優しげな子が。
花を見て微笑む彼女に僕は頬が熱くなるのを感じた。らしくない…。そんな、僕が女の子にドキドキするなんて。


「……。あ、あの!ここの人ですか?」
「えっ…!?あ、あぁ。」
「ここの丘、とても綺麗ですね。何て言うんですか?」
「(綺麗、か…。)…見晴らしの丘って言うんだよ。」
「見晴らしの、丘…。なんか不思議な名前ですね!あ、名前は何て言うんですか?私は名前です。」
「僕はシュウ。この島に住んでいるんだ。」
「そうなんですか。あ、もう行かないと。また会えたらお話しましょうね!」


そんなことを言って彼女は丘の向こうに見える謎の建物の方へ向かって走って行った。

ここの丘を、この島のものを綺麗だなんて。僕には呪われてるとしか思えないのに。
ひどく彼女が純粋に思えた。
彼女が美しいと言ってくれると、少しだけ僕にもそう思える気がした。

彼女が去ってもいまだに熱を帯びている頬。
僕はこの感情の名前を知っている。
久々に抱いたこの温かな感情。
今まで冷めきっていた僕に温もりをくれるこの感情。
でも気づいてはいけない…ということも僕はわかっていた。
この感情を受け入れてしまったら、結局最後にはまた悲しまなければならないんだ。僕も彼女も。


所詮、僕はこの世に後悔や未練、恨みといった感情で存在しているに過ぎない幽霊なんだ。
僕にはもう誰からの愛も受け取れない。誰も愛せない。


嗚呼、僕がこの時間に生きていたら何か変わっただろうか。
きっと変わっただろう。愛も温もりもすべて感じられただろうに。

また、会えたら…か。
もうきっと会えないだろうな。また会ったりしたら僕はますますこの運命を恨んでしまうだろう。


やっぱりこの島は嫌いだ。