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クリスマス舞踏会当日。
朝食を母親と一緒に食べていると今日は何時に向こうにお邪魔するの?と聞かれたので12時だよ、と返事をする。
パーティーは17時からなので12時にアパートの前まで迎えに来てくれることになっていた。
ふふふっ、とお母さんは何やら楽しそうに笑っている。

「何?なんかあった?」
「跡部君、とっても礼儀正しくてかっこよかったわーって思い出してね」
「え、なんでお母さんが跡部のこと知ってるの!?」
「昨日うちに来たのよ。お父さんにもちゃんと挨拶してくれるし、とてもいい子ね。お母さん少し若返った気分よ」

ルンルン気分のお母さんは跡部のことをベタ褒めした。跡部の方が猫被りじゃないか。
でもどうして跡部がうちに来たんだろう。昨日父親の話をしたからかな。
訳を聞いてみると端的に言って詫びに来たらしかった。貴重な休みに連れ回してしまって申し訳ないと、あの跡部がわざわざ言いに来たらしい。
ただの真面目か!
そういうところ、いいところのお坊ちゃんだよなぁと思う。きっと昔から礼儀とか叩き込まれてたんだろうな。

「まぁ楽しんでらっしゃい」
「うん、そうする」

母親を見送りお昼まで課題を片付けることにした。
今日から冬休み。期間が短いとはいえそれなりの量がある。お迎えがくるまで出来る限りやっておきたい。



課題に夢中になっていると約束の時間はすぐにきてしまった。小腹が空いたのでおにぎりを握りそれを昼食代わりに食べる。
お迎えの車で跡部邸にやって来ると跡部が出迎えてくれた。

「昨日うちに来たんだってね」
「手厚くもてなしてくれたぜ。何か勘違いされてたみてぇだが、大丈夫だったか?」
「まぁ、大丈夫だよ。若い子と話せて若返ったーって喜んでたし」
「ならいいんだが」

そんな会話をしながら客間に通された。また後で、と言葉を交わし跡部は自分の準備のため客間を後にする。
いつもお世話をしてくれるメイドさんたちが準備を手伝ってくれる。
今日のドレスは深紅色。クリスマスにぴったりだ。
バラの模様が完全に跡部の趣味全開。だけど跡部のチョイスはTPOに合ったものだと信じてるからメイドさんに全て委ねることにする。
髪の毛はゆるく巻いてハーフアップに。シンプルな真珠のイヤリングが動くたび揺れる。
少し胸元が寂しいなぁと思いながら跡部と合流すると、奴はタキシードに身を包み、髪型をオールバックに決めていた。いつもと雰囲気が違くて別人に見える。というか最初のパーティーよりかっちり決めてる?
そしてそんな跡部から俺からのクリスマスプレゼントだ、と細長い包みを渡された。
綺麗にラッピングされているそれを、なんかもったいないので丁寧に開けると中身はネックレスだった。ゴールド色のシンプルなネックレスは見るからに高価な物だとわかる。

「そのドレスに映えるだろうと思ってな」
「でもこんな高価なもの貰えないよ」

この間のハンドクリームとは訳が違う。明らかに桁が違う代物だし、貰う理由も今の私にはない。

「いいから素直に受け取れよ。俺は玲子にプレゼントしたいと思って選んだんだ。俺に恥をかかすなよ」

そう言われちゃ受け取るしかなくなる。
お礼を言うとケースからネックレスを取り出し俺がつけてやる、という発言にびっくりしてしまう。
紳士だ!跡部が今まで見たことのない紳士さを振りまいている!
私の後ろに回りネックレスをつけてくれているけど距離が近いからか跡部から香水の良い香りがして頭がクラクラしてきそうだ。
うわ、これめちゃくちゃ恥ずい!

「照れてんのか?」
「な、慣れてないだけだよ!」

私の様子が違ったのに気付いたのか跡部は笑っていた。その余裕が腹立つ。

「そういえば今日の跡部、いつもと違うね」
「今日は日本人の割合より海外からの参加者の方が多いからな」
「じゃあ海外仕様ってことだね」
「そういうことだ。英語は…って心配いらねえか」
「任してよ。会話ぐらいならできるから」

それを聞いて俄然やる気が出てきた。
氷帝にいるALTの先生は日本語もバッチリな人だから私が英語に躓いてもちゃんと意図を理解してくれてスムーズに会話が成立するけど、今日の相手は海外在住の人たちだ。
氷帝には海外交流なんていうプログラムもあるけどお金が掛かるからいつも不参加だった。私の英語がちゃんと通用するのかを試す絶好の機会だ。
あぁ、だからか。
そこで私は気付いてしまった。どうして私を舞踏会に招待してくれたのかずっと気になってて、それが今胸にストンと落ちた。
跡部は留学にも交流会ですら参加できない私を哀れんで舞踏会に招待したんだ。そんな同情をする人じゃないと思ってたんだけど。ちょっとショックだ。そんなお情けなんていらないのになぁ。
胸元に目を向けるとついさっきつけてもらったネックレスがキラキラ光っている。その輝きが眩しい。眩しすぎて直視できなかった。
私のバイト何日分だ、馬鹿野郎。
さっきまでやる気十分で気分が良かったのに天国から地獄に突き落とされた気分になる。
今の私は、物凄く惨めだ。



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