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「あー疲れたー」

二学期の終業式後、舞踏会を明日に控え最後の追い込みを終えた私はソファへ倒れ込んだ。
疲労困憊で呼吸が乱れている私に対し、跡部は涼しい顔をして紅茶を飲んでいる。
樺地君が淹れてくれた紅茶は本当に美味しいけど私の前に置かれたティーカップから湯気がモクモクと上がっているのでもう少し冷めてからいただくことにした。その樺地君は応接セットを元の位置に戻し、美味しい紅茶を淹れてくれた後生徒会室を後にした。私に気を使ってくれてるんだろう。
きっと、樺地君がここにいれば私はソファへ倒れ込むことも、ぜいぜい息を乱すことも躊躇ってしまうに違いない。結局私は、本性を跡部以外の前ではあまり見せてないのだった。そう実感したのは文化祭の時で、跡部といると楽しいと感じている自分がいた。
そろそろ紅茶がいい感じに冷めた頃かな。
姿勢を正してティーカップを持ちカップを口に持っていく。
あー美味しい。

「様になってきたな」
「そりゃあんだけマナーの本を読んだら嫌でも覚えるよ」

パーティーに参加する時に跡部に貰った本にはティーカップの持ち方や飲む時の所作なども載っていた。わかりやすく説明書きされていたのでスラスラ頭の中に入り、実生活にも役立っている。

「そういえば、舞踏会がイブってことはクリスマスはどうするの?」
「クリスマスは毎年テニス部員と跡部倶楽部との合同パーティーが入ってる」
「また?物好きだねぇ」
「季節のイベントの時にしかパーティーは開かねぇからな。玲子も来るか?」
「遠慮しとく、クリスマスはバイト入れてるし。……あれ、海外ってクリスマスは家族と過ごすもんじゃないの?」

本で得た知識でしかないけど、あっちでは結構ド派手にクリスマスを祝うらしいし、帰国子女も同じじゃないのかな。

「それは子どもの時の話だな。家族や親戚が集まってクリスマスは祝うが、もうそんな歳でもねぇし。まぁフィンランドから本物のサンタがパーティーに参加した時は子ども心に喜んだがな。そっちこそどうなんだ?」

本物のサンタの話を深く掘り下げたかったのに話を振られてしまった。凄い気になるけど、玲子は母親と一緒に過ごしたりしないのか、と聞かれ答えるしかなくなる。

「昔は母親も無理をして一緒に過ごしてたけど今はそんなこともないよ。親戚も近くに住んでないし、頼れる人なんていなかったから。……一回、ちゃんと話したほうが良いかもね」
「何をだ?」
「私が玉の輿にこだわる理由。ってそんな大した話じゃないけど」

私にとっては大した話だけど跡部からしたらきっと取るに足らない話だ。だけど跡部と関わる機会が増えて、なんとなくだけど跡部家の家族事情だったり知ることができたけど私のことをちゃんと話すことはしてない。
まぁ跡部が知りたくもなければ話すことじゃないんだけど、それもフェアじゃない気がする。
だけど跡部は私の話に興味を持ってくれた。話してくれ、と聞く体勢になっている跡部の姿を見てほんの少しだけ嬉しい気持ちになった。私に歩み寄ってくれたその気持ちが嬉しい。

「……私の父親、私の小さい時に交通事故で亡くなったの。だからお父さんの記憶ってほとんどなくて。しかもお父さんが死んじゃう前におじいちゃんおばあちゃんも死んじゃって。滝川家って短命だよねってよく母親と話してるんだけど。…だから早く自立したいって余計に思うのかも。だって、お父さんが死んだ時の保険金、全部私の教育費に使っちゃったんだから。お母さんは玲子のためにお父さんが残してくれたんだから良かったって笑ってたけど申し訳なくて。だから私の夢は玉の輿に乗ることなの。お母さんのためっていうのはあるけど、それは多分二の次。私が幸せになるために。自分もハッピーだし、お母さんも楽になれる。それってすごい幸せだと思うんだよね」
「だから玲子はシンデレラになりたかったのか?」
「そうだね。シンデレラになりたかった。でも何もしなかったらシンデレラになれないことも知ったの。だから私はしおらしくて気立ての良い人になろうと思った。でも、跡部には全部お見通しだったみたいだけどね。はい、私の話はおしまい。聞いてくれてありがとう」

話し終えると礼を言うのはこちらだ、と言われてしまった。話を聞くのが舞踏会の前で良かったと跡部は続ける。

「玲子。俺様が最高のクリスマスイブにしてやるよ」

そう自信ありげな表情に私の心は踊った。
跡部といると退屈しない。楽しいし、居心地がいいとさえ思っている。
そうか、私はきっと、跡部のことを信頼しきっているのだ。



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