23

氷帝学園高等部学園祭の時が遂にやって来た。
跡部が在籍しているからか毎年学園祭は入場券を持っていないと入れない仕組みになっていて、今年もそのチケットの争奪戦が凄まじかったと風の噂で聞いた。実際どんな戦いが繰り広げられたのかは不明だけど。
もう間もなく開場するということで、二年A組は調理室に集まっていた。自分達の持ち場に着き、マイクを持った実行委員の男子に注目する。

「えー、みんな今日までご苦労様でした」

ここで他の男子からそれは終わってから言う台詞だろーとツッコまれ笑いが起きた。頬を掻き、そうだねと苦笑をしたけど実行委員の男子は続けて言う。

「俺も結構テンパってて、だけどここまで完璧な企画を実現出来たのはみんながいたからです。特に跡部君と滝川さんには頭が上がらないよ。……本当にありがとう」
「だから最後の台詞だっての」
「ははっ。まぁとりあえず、今日は怪我もトラブルもないように楽しみましょう。以上」

パチパチ、と拍手をするみんな。私もそれに混ざり拍手をする。跡部は今ここにはいない。実行委員会の仕事がまだあるらしく、それが片付き次第こちらに来る手はずになっている。そんなに時間は掛からないと言っていたのでもうすぐ来るだろう。
ピンポンパンポーンとチャイムが鳴り、学園祭開場を知らせるアナウンスが流れた。
テンションは最高潮。ここからが本番だ!

開場してすぐ女子の群れが調理室に流れ込んできた。私は他の子と一緒に列の整理をし、どうにか綺麗に整列することが出来た。その間に跡部がやって来て、特別に組んだステージに上がる。そして、何を思ったのか司会用にと用意していたマイクをマイクスタンドから引っ手繰り、整列している女子に向かってこう言った。

「お前ら、俺様に変なもんを食わせやがったらタダじゃおかねぇからな」

少しの沈黙の後、はい!という跡部ガールズの声が揃う。半端ないほどの統括力だな。この女子全員がサクラじゃないかと疑ってしまうほど息がピッタリだ。
そしてグループを作り、司会役のクラスメイトがステージに立った。
あれから案を練り直し、6つのチームに分かれトーナメント方式で勝敗を決める形に収まった。テーマは学食のランチのメイン料理。一回戦、二回戦と続くごとにお題を変えていく。そして跡部に選ばれたチームのメイン料理が実際に学食で提供される。勝利チームの特典というわけだ。
そんな説明が終わり、観客の人が入れないのでまだ出番ではない参加者の人達には別室に移動をしてもらう。予定人数を超過したため参加の受付を締め切り、会場は熱気に包まれた。
見物客の人達の入りも上々。これなら売り上げ的にうちのクラスが一番かもしれないな。というか私ってこういう仕事が一番向いてるんじゃないのか?じゃあ将来は女社長?玉の輿+女社長か。うん、悪くない。

「滝川さん、ちょっといいかしら」
「はーい。……あら、会長さんでしたか」

同じクラスの子に呼ばれたと思っていたけど跡部倶楽部の会長に声を掛けられた。会長は見物席に座っていて、どうやら参加はしないらしい。跡部いるところにこの人ありって感じだ。
私はニッコリと微笑みおはようございます、と会長に挨拶をした。会長は一瞬苦虫を噛み潰したような顔になり、それから口元だけ笑った。

「おはようございます、滝川さん。今日のこの企画はあなたが立案者だと風の噂で聞いたのだけれど、それは本当かしら?」
「えぇ、まぁ。けれど実現出来たのはクラスのみんなと跡部君のおかげですよ」

『跡部君』というところを少し強調して言う。ピリッとした空気が一瞬だけ流れた。ってなんで私はこの人とこんなに張り合ってるんだろうか。

「会長はどうしてこちらに?」
「跡部倶楽部の会員も多数参加してるのよ」
「会長は参加されないんですか?もしかして、料理は苦手だとか?」
「そんなことあるわけがないでしょう。私が参加してしまうと跡部君が美味しさのあまり失神してしまうかもしれませんわ。ですからその可能性をなくすために私は参加を取り止めたの」
「そうだったんですか。さぞかし美味しいんでしょうね」
「えぇ。あなたにも一度試食させてあげたいぐらいだわ」
「あはははっ」
「おほほほっ」

バチバチ、と見えない火花が飛び交う。実際には仲睦まじく笑いあってるようにしか見えないんだろうけど。
そして会長との小競り合いも終わり、開始の合図を司会の男子が告げた。





『皆さん、学園祭一日目、お疲れ様でした。最終下校時間は一時間後になります。その間に各クラスの片付けを終え、速やかに下校してください。繰り返します…』

廊下に設置されているスピーカーから流れてくる声に耳を傾けながら私は生徒会室の前までやって来た。
クラス企画は問題も起きず無事成功を収めた。片付けも終わり、明日もあるので早々と解散になった。
片付けの最中、跡部の姿が見えなかったので、どうせまた生徒会室だろうと目星をつけてドアを開けたらやっぱりいた。けど思っていたより元気がなさそうな跡部はソファに座っていた。

「よっ。結構グロッキーだね、大丈夫?」
「大丈夫そうに見えるか?」
「ぜんっぜん見えない!」

笑顔でそう答えると跡部は溜め息をついた。どうやら料理を食べ過ぎて胃が堪えたらしい。
まぁそれはそうか。一口ずつとはいえあれだけの量を食べるのはキツい。
念のためにと樺地君から預かっていた胃薬と自販機で買ってきたペットボトルのミネラルウォーターを跡部に渡し向かいに座る。

「用意がいいな」

と跡部は言い胃薬を飲んだ。
ゴキュゴキュと音が聞こえてくるので喉が乾いていたらしい。濃い味ばっかりだっただろうし当然か。

「それは樺地君から。跡部家の医療班の人から渡されてたんだって。というか本当、よく食べたね。見てたこっちもお腹いっぱいになったよ」
「途中でリタイアするわけにもいかねぇだろ。最も、それは俺様のプライドが許さねぇけどな」
「あーアンタはそういう奴だったよ。……でも、楽しかったね」
「胃はもたれたがな」
「あはは、その歳で胃もたれって…え?楽しかったの?」

自然に私の言葉を肯定したもんだから驚いてしまった。そしたら跡部に怪訝な顔をされてしまった。何こんなことで驚いてんだよ、と。

「あ、いや、跡部が素直だって思って。もしかしてアンタ偽者!?中身樺地君でしょ!?」
「なわけあるか」
「本物?」
「俺が偽者だと思うか?」
「思わないけど」

じゃあ別にいいだろ、と跡部は言いソファから生徒会長の席に移動した。まだ仕事が残ってるみたいで、お邪魔だろうと私は立ち上がる。

「私さ、初めて跡部と同じクラスで良かったって思ったよ」
「それは感謝されてんのか?」
「されてるされてる。じゃあまた」

生徒会室を出て私はニヤけそうな顔をしっかりと引き締めた。なんだかんだで一日目は無事終了したし、企画は大成功だ。



back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -