17

次の日から昼休みの生徒会室で跡部によるスパルタお勉強会が始まった。
跡部家料理人さんによる特製お弁当を食べ終え、その勉強会は開始される。暗記物は得意な方だったので、跡部には理系を教えてもらうことになった。まずは数学。公式を覚えさえすれば解けない問題はないと思っていたけどそれは大間違いだった。跡部の出す問題のほとんどが解けずじまいで、妙な敗北感を味わう羽目になってしまった。

「これ本当に習ったっけ」
「覚えてないのか?」
「いや、ちょっと待って!」
「待たねぇよ。この公式をこの数字に当てはめて……」
「わ、わかってるよ!」
「わかってねぇから俺が教えてんだろ」
「はい」

跡部が正しいから口答え出来ない。私のノートにすらすらと難問を解いていく跡部の文字は走り書きにしては綺麗に整っていて、それが私よりも上手で変なところで嫉妬をしてしまう。顔も文字も整ってるのって羨ましい。

「玲子、聞いてるのか?」
「聞いてるって。この数字をこの公式に当てはめて……あ、解けた」

跡部の言うとおりに問題を解いてみるといとも簡単に問題が解けてしまった。跡部は赤ペンで丸をつける。何だかそれが嬉しかった。赤ペン先生に丸をつけてもらったみたいで。昔、ひそかに赤ペン先生に憧れていたのだ。

「解き方を知っていれば解けない問題なんてねぇんだよ」
「跡部らしいね」
「理系は答えが一つだからな。無駄に悩むこともない」
「ああ、なるほど。ますます跡部らしいね」
「どういう意味だ?」
「だって跡部って中間を嫌ってそうだし。好きか嫌いか。イエスかノーか。二つに一つって感じ」
「玲子はそうじゃないのか」
「私もはっきりさせたい性質ではあるけどね。中間もあっていいかなって思う。一つの答えよりいろいろな正解がある方が楽しいかなって」
「お前はお気楽だな」
「貧乏人ですから」

にぃっと笑って見せる。いつもの嫌味だろうけど怒るつもりはなかった。跡部はいろいろな物を背負っていると感じてしまったからだ。まぁそれはそういう気がするってだけで、結局は私の妄想だし自己満足なんだけど。そのぐらいの嫌味なら聞いてやるってわけだ。ガス抜きの役割ぐらいどうってことない。
前より丸くなったな、と跡部に言われた。なので、私は成長したんです、と冗談っぽく笑って言っておいた。丸くなったのはお互い様でしょ、と思ったけど口には出さなかった。




「スマホを貸せ」
「……は?」

テストも明後日に迫り、今日のお弁当のおかずはなんだろうなーと楽しみにしながら生徒会室にやって来たら跡部がソファにふんぞり返って座っていた。そして最初の台詞に戻る。その台詞と一緒に手を差し出された。

「何でスマホ?」

跡部の向かいに座り事の詳細を聞くために跡部に尋ねる。

「今持ってるだろ」
「持ってるけど、それがなんなの?私の携帯で悪事を働くわけじゃないよね」
「するわけねぇだろ」
「だったら何?」
「なら言い方を変える。番号とアドレスを寄越せ」
「やっぱり悪事に使うんじゃん!」
「ちげぇよ。普通に交換するだけだ」
「……私と跡部が?」
「あぁ」
「一体どういう風の吹き回しよ」

おかしい。完全におかしい。けど跡部に言わせてみれば前から考えたことだったというのだ。この間の跡部倶楽部の一件もあるし、連絡手段がある方が後々便利だろう、と跡部は言う。まぁそれは一理あるな。

「悪用しないでよ」
「誰がするか。お前こそ、俺のアドレスをばら撒くんじゃねぇぞ」
「いくらお金のためだからって犯罪行為はしませんよー」

跡部のアドレスだったら高値で取引出来ると思うけど、それは人としてやってはいけないことなのですぐに頭の中から消去する。スマホを跡部に渡し、アドレス帳に入れてもらうことにした。

「玲子、お前仲の良い奴はいないのか?」
「あぁ、まぁね」

スマホを渡した時点でそこをツッコまれるのは予想していた。とりあえずお腹がすいたので跡部には悪いけど先にお弁当を食べることにする。これも明日で最後かと思うと寂しくなるよ。
アドレス帳には、母親の番号とかにんまり弁当の番号とか必要最低限の番号しか登録しておらずスクロールをすればすぐ一番下まで辿りついてしまう程度の数しか入っていない。

「可哀想って思わないでよね。スマホを買ったのは高校に入ってからだし、猫被ってるから特定の友達なんて作らないし。私は一匹狼ならぬ一匹猫ってね」
「難儀なことだな」

跡部はほらよ、とスマホを私に返す。アドレス帳を確認すると一番最初に『跡部景吾』と入っていた。あ行なんだから当たり前なんだけどさ、何だか少しイラッとくるのはなんでだろう。

「でも、この先跡部と連絡を取り合うことなんてあると思う?」
「さあな。だが、今度は俺を頼れよ」

さらっと跡部はそんなことを言いお弁当を食べ始めた。反対に私はびっくりして箸が止まった。俺を頼れって跡部に言われた。つっけんどんな態度は鳴りを潜めて最近は素直だ。これは良い傾向なんだろうか。



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