13

マジギレ最中の跡部に話し掛けることすら出来ず遂に放課後になってしまった。
生徒会室の前まで来て、一つ大きな息を吐く。ああ〜絶対何か言われる。というか何で怒ってるのかそれもわからないのに対処のしようがないって話だ。私はまた深呼吸をして生徒会室のドアをノックした。…返事がない。返事をしてから入れ、みたいなことを言われたので返事を待ってるんだけど、中に誰もいないのかな。そんな、まさか。私は意を決してドアを開けた。

「失礼しまーす。っているじゃん!」

跡部は黙々と会長の机で書類に目を通していた。さっきのノックが聞こえていないとは言わせない。そう言ってやると昼休みの時は勝手に入ってきただろ、と跡部は言った。だから今回もズカズカと入ってくると思ったらしい。
なんか微妙に考え方がすれ違ってるな。相性悪くない?私達。
私と跡部はソファに向き合う形で座った。跡部は眉を吊り上げていてまだ怒っているみたいだ。

「あの写真とデータはきちんと処分したから安心しろ」
「その件については本当にありがとう。跡部が来てくれなかったら強引に奪ってたよ」
「奪った後はどうするつもりだったんだ?」
「写真とデータを捨てて元通りだよ」
「本当に元通りに生活出来ると思ってたのか?」

跡部の質問に答えが詰まる。そうだ。私はとんでもない人を敵に回すところだったんだ。相手は先輩で、跡部倶楽部の会長で、しかもお金持ちで。そんな人が敵になったら絶対に敵うはずがない。跡部が来てくれてそれは回避されたけど、助けに来てくれなかったら私は氷帝にいられなくなったかもしれないのだ。想像するだけで怖い。
俯いて答えるのを拒否しているとはぁ、と跡部から溜め息が漏れた。

「助けろと言えって言っただろ」
「一人で解決できるって思ったの。というかこの間俺を頼るなって言ったじゃん!」
「あれは言葉の綾だ」
「どこが!?」
「いちいち説明しないとお前の頭は理解出来ないのか?」

意味がわからん!私跡部のお父さんじゃないんだからその言葉の意味を理解出来るわけないじゃないか!素直じゃないにも程があるよ。…ん?それで跡部は怒ってたの?跡部に助けを求めなかったから。

「…それが怒ってる理由?」
「アーン?怒ってねぇよ」

ギロっと睨まれてしまった。これ完全に怒ってるじゃん。自分の感情もコントロール出来ないわけじゃないでしょう。全くもう。

「一応俺の方にも責任があるしな」
「それで私のこと助けたりしたの?他に理由は?」
「あるに決まってんだろ」
「え?」

こ、これは私のためにっていうパターンじゃないですかね、今の状況的に。もし本当にそうなら私の心臓にズッキューンと矢が刺さっちゃうよ!?跡部も変なところで素直になるんだから。もしかして私に惚れたのか!?キャー!もしそうならどうしよう!?結婚しようってプロポーズされちゃうのかな。パーティーはもう懲り懲りだけど玉の輿なんだからOKしちゃおう。跡部のことは好きじゃないけど、お金は愛をもさえ凌駕する代物なのよ!

「あの写真をばら撒かれたりしたら俺の名誉が傷つくからな」
「あー…うん、そうだよねー」

一瞬でもそう思ってドキッとした私がバカだった。妄想の時間が無駄だったわ。まぁ少し考えればわかることか。

「アレが出回ってみろ。俺が一般庶民の貧乏で猫被り女と付き合ってるってことになるだろ」
「どうせ私は貧乏で猫被り女ですよー。って私、会長に猫被ってるってバレちゃったんだ」
「バレちゃいねぇよ。最初からそういう性格だと思われてたんだろ」
「えっ」

それもそれでマズイような。金持ちって金持ちのわりに勘が鋭いのね。

「じゃあもういちゃもんをつけられることもないってこと?」
「当分はな」
「あー良かったー」

私にとってそれが唯一引っ掛かったことだから全身の力が抜けた。諦めないって彼女は言っていたけど跡部に釘を刺されたことが決定打になったらしい。

「本当に良かったー。跡部様様だよー」
「自分の保身のためにやったことだ」

素直じゃないな。それも一種の照れ隠しだろうか。多分、そうだ。段々と跡部の癖がわかってきた。ってこんな奴の癖がわかったってこの先それが役に立つかわかんないけど。
けどもう少し跡部と話していてもいいかなーと思っていると鞄の中に入っている携帯が鳴った。放課後になったからマナーを解除していたんだ。携帯を開くと店長からのメールで私はその時バイトのことを思い出した。跡部と話すことに集中していてすっかりバイトのことを忘れていた。

「ヤバッ、バイトに行かないと。じゃあね跡部、また明日!」

跡部に別れを告げ生徒会室を後にする。今日は問題が一気に解決したし、私は清々しい気分でバイトに向かった。



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