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誰にも頼らずこの問題を片付けるためにはどうしたらいいか、頭をフル回転させるため図書室にやって来ていた。
跡部には絶対に頼らない。会長にも奴には言うなって釘を刺されたし、これは私の意地だ。
あの勧誘から二日が経ったけど、彼女は一向に姿を現さない。神出鬼没な人だからいつやって来てもおかしくはなく、どうやって断ろうと空いていた席を見つけそこでいろいろ考えていると、滝川さん、と男の人に声を掛けられた。振り返ってみるとそこに樺地君がいて私を探していたらしい。

「跡部さんが、生徒会室で待っています」
「私を呼んでこいって言われたの?」

私が尋ねると樺地君はウス、と頷いた。何でこんなタイミングでお呼びだしがかかるのよ。このことを跡部が知ってるわけないだろうし。

「わかった。すぐ行くね」

跡部から逃げたって何も始まらないだろうし、とりあえず生徒会室に向かうことにした。
コンコン、とノックをして返事を聞かずにドアを開ける。

「失礼しまーす」
「まだ返事をしてないんだが?」
「アンタが呼んだんでしょ」

ドアを閉めてソファに座る。跡部は生徒会の仕事をしていたらしく、パソコンと向き合っていたけど仕事を一時中断して私の方に顔を向ける。私なんか放っておいて仕事をすればいいのに。

「お前、会長に何か言われたか?」
「別に、何も」

その話だろうと思ってた。けど本当のことなんて言ってやらない。頼るなって言ったのは跡部なんだから。

「じゃあ近々向こうから何かしら仕掛けてくるかもしれないな。助けてと懇願すれば助けてやってもいいが?」
「跡部に助けを求めるほど私はヤワじゃないよ。というか会長ってそんな凄い権力を持ってるの?」
「跡部財閥には到底及ばないがな。彼女はうちの子会社の重役の一人娘だ。だから躍起になってるんだろう。婿を取らなければ彼女の家は廃れる。しかし相手を選ばなければならない。彼女の家の資産以上に資産を持っている家の男との結婚が一番手っ取り早いからな。そして俺に白羽の矢が立ったってわけだ。跡部倶楽部もその延長みたいなものだろうな」
「へぇ。金持ちは金持ちなりにいろいろあるんだねぇ」

ドラマとかでよくある派閥争いみたいなものかな。でもそんな壮大なことじゃないか。なんだか裏の世界を知ってしまった気分だ。

「って、じゃあ跡部倶楽部のメンバーの中に跡部の花嫁候補がいっぱいいるってこと!?」
「簡単に言えばそうなるんだろうな」
「うわー大変だね、跡部も」
「このくらいで音を上げていたら跡部財閥なんて継げねぇだろ」
「あー確かに」

偉そうにふんぞり返っていると思ってたら裏でこんなことになっていたんだ。
いろいろ跡部も跡部なりに問題を抱えてて、ただの仲良し倶楽部だと思っていたけど内側は結構ドロドロで。私は、跡部やその周りの人達のことを見誤っていたのかもしれない。きっと彼の心は奈落より深く、いろんな色が混ざりあっている。まぁこれは全部想像だけど、それを全て知ろうなんて不可能なのだ。

「……わかった」
「何がわかったんだ?」
「跡部のおかげでよくわかったよ。ありがとう」
「だから何がわかったんだよ」
「じゃあね跡部」
「おい、玲子」
「だから玲子って呼び捨てしないでってば!…バイバイ、跡部」

跡部に再度呼び止められるけどそれを無視して生徒会室を出る。
昼休みが終わるまで後15分。15分もあれば十分だ。
決着を着けよう。私は彼女にはっきりと伝えなければいけない。その条件は飲めない、と。そんな形だけのクラブ活動なんて意味ないって言ってやるんだから。
三年生の教室辺りをうろついていると運良く会長と遭遇した。

「あら、どうしたのかしら」
「会長にお話があって来ました」
「場所を変えましょうか。ゆっくりとお話が出来るように」

こっちよ、と会長に案内されてやって来たのは屋上に続く踊り場だった。屋上は普段立入禁止になっていて踊り場は薄暗い。不良生徒の溜まり場のイメージが強いけど誰もいなかった。
人目につかないし、ゆっくりと話をするにはちょうどいい場所だ。時と場合によるけど。

「もうすぐ五限目が始まりますわよ」
「すぐお話は終わるので心配しないでください」
「そう。では、跡部倶楽部に加入してくださいますのね」
「いいえ、私はそんな倶楽部に入りません」
「な、何を言っているの!?あなた、まさかこのことを跡部君に」
「言ってません。私が決めました」
「では、なぜ?この写真をばら撒かれてもいいというの?」

会長は写真と一緒にSDカードを私に見せた。そのSDカードに元のデータが入っているらしい。

「……会長は何のために跡部倶楽部の会長を務めているんですか?自分の家のためですか?」
「あなた、跡部君から何か聞いたのね。けれどね滝川さん、私は自分の家のために好きな人を選ぶだなんていう昔のお嬢様風情に被れてませんの。私は自分のために会長を務めているのよ」
「けど、家のためでもあるんじゃないですか?」
「それはない、とそう言い切れないのは事実ね。あなたには一生わからないと思うのだけれど」

会長はその鋭い目で私を睨む。
そうだよ。金持ちの気持ちなんて私には一生わからない。跡部の気持ちも、会長の気持ちもわかりやしないんだ。つまり一生、私達は分かり合えない。

「それで、あなたに選択肢があると思って?」
「それでもやっぱり嫌です」
「あなた、正真正銘のバカね」
「ええ、私はバカです。でも跡部倶楽部に入って仲良しこよしするよりマシです。家のためでもあるんだったら正々堂々と跡部と向き合ったらどうですか?会長としてではなく、先輩個人として。私からすれば跡部倶楽部なんて馬鹿げてますよ。どうしてこう、金持ちって回りくどいことしかしないんですかね!?」
「私に聞かれても」
「いや、本当に!跡部もそうだし、会長もそうですよ!」
「は、はい!」

私の優等生キャラが若干崩れてしまってきている。もういいか。会長は私の迫力に気圧されているみたいだし、本性を晒してこのまま押し切ってしまおう!

「大体金持ちは強引で素直に言うことも聞いてくれなくって、まぁ、お金で動いちゃう私にも非があるとは思いますよ!?会長の言うとおり一生お金持ちの気持ちなんてわかんないし、きっと理解したいと思っても理解させてもらえないというか自分の気持ちを隠して絶対に表に出さないんですよ!もうほんと、絶対好きになんてなれな」
「滝川、文句は後で聞いてやるよ」

ふいに聞こえた第三者の声は、最近よく耳にする声で、一発で誰なのかわかってしまった。
跡部景吾だ。階段に視線を落とすと奴はそこにいた。アンタは忍者か!とツッコミたくなる。跡部ははぁと溜め息をつきながら階段を上り踊り場にやって来た。というかよくこの場所だってわかったわね、と思っていると階段の下に樺地君が待機していた。なるほど、樺地君が情報元か。

「どうして、ここに」

会長は怯んだ表情をして、写真とSDを跡部に見られないように背中に隠した。

「隠しても無駄です。その写真とデータ、渡してくれますよね」

何でそのこと知ってるの!?
驚いていると会長は私を睨んだ。違う、私じゃない!と首を横に振る。

「跡部財閥を舐めては困りますね」
「……これは滝川さんとの取引ですの。絶対に譲れませんわ。それと、滝川さんと縁を切った方がよろしいんじゃなくて?こんな口の悪い女性と一緒にいますとあなたに悪影響を及ぼしますわよ」

私が黙ってるからってそこまで言わなくても良くない!?だから金持ちって嫌いなのよ!

「先日言ったばかりですよね。あなたが気にかけるような奴ではないと」
「ですけどこの方と縁を切った方があなたのためだと私は、」
「あなたに指図される覚えなどない。それは俺が決めることだ。早く渡せ」
「ッ!」

跡部がマジギレをしている。何でそこまで…って私のために?え、嘘、やだ、本気?

「……滝川さん、私は諦めませんからね」

最後の負け惜しみを言い放ち、会長は跡部に写真とSDカードを渡した。

「跡部君、私は自分のしたことを恥じてはいませんし、間違ったことはしていないと思います」
「ええ、俺もあなたと同じ意見です」
「そう。それなら大丈夫ね」

そして会長は長い髪をなびかせながら踊り場を後にした。跡部はまた溜め息をつき、階段を下りていく。ちょっと待って、と私は跡部を引き止めた。一応お礼を言わないと。助けてくれたんだし。

「跡部、あの、あり」
「お前、放課後生徒会室に来い」
「え?」
「わかってんだろうな、アーン?」

振り向いた跡部が物凄く怒った顔をしていたから頷くしかなかった。あれ、もしかして怒られるパターン?
そして無情にも昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。



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