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翌日、いつものように登校する。下駄箱には何も入ってなかったし上履きに画鋲が仕込まれていることもなかった。机の中にも何もなく、教科書を捲っても落書き一つ描いてなかった。クラスの女子からシカトされることもなく、昨日と全然変わらない。
さすがに跡部倶楽部の会長でも一人の生徒を追放することはできないようで警戒していた私がバカみたいだ。
何事もなく昼休みになった。やっぱり一番良いロケーションは噴水前だなと思いその場所へ向かう。
あぁ跡部のいないお昼は最高だ、と存分にお昼休みを満喫していると、ふと上から視線を感じ見上げてみると彼女がいた。

「えっ!?」
「隣、お邪魔しますわね」

颯爽と私の隣に座ってきた彼女は跡部倶楽部を取り仕切る会長だった。跡部といいこの人といいどうして金持ちは神出鬼没なの!?

「あなた、いつも一人で昼食をとっているの?」
「まぁ」
「寂しい人ね」

ほぼ初対面の後輩によくそんな失礼なことを言えますね!もうこの場から逃げた方が得策かもしれない。
そう思い逃げる準備をしていたら、逃げることはなくってよ、と会長は私を引き留めた。
そのお嬢様喋り止めませんかね、癪に障るんで、と喉を通りそうだったので無理矢理飲み込む。

「あの、私に何か用ですか?」
「用があるからわざわざ足を運んでいると思うのだけれど」
「すみません」

って何謝ってるんだ、私のバカ。金持ちのオーラに気圧されちゃ負けなのよ。

「まぁいいわ」

と彼女は長い髪をふさぁっと揺らし、それから私と向き合った。

「あなた、私のことはご存知かしら」
「えぇ、まぁ。跡部景吾ファンクラブの会長さん、ですよね」
「そう!私は跡部景吾ファンクラブの会長を務めてますの。以後お見知りおきよ」
「はぁ」
「滝川さん、先日のパーティーは楽しかったかしら」
「えっ、な、なんのことでしょうか」
「先日のパーティーはたのし」
「あーえーっとパーティーですか?私そんな催しに出席したことは」
「人の話を遮らないでくださる?証拠はありますの」

すっと会長はスカートのポケットから一枚の写真を取り出した。私はそれを見て目を見開く。会長は勝ち誇った顔をして笑っていた。
そこにはパーティー会場で私と跡部が笑いあっている姿が写し出されていたのだ。あぁ、だから私の名前を知っていたんだ。

「どうやって入手したんですか?」
「知り合いのおじ様がパーティーに出席してらして、申し訳ないけれど隠し撮りをお願いしたの。跡部君の隣にいるのは滝川玲子さん、あなたよね?」

抜かった。隠し撮りされていたなんて全く気付かなかった。

「……私をどうするつもりですか?先に言っておきますけど、跡部君とはただのクラスメイトですよ」
「そんなのわかっているわ。跡部君からあなたのことをそう紹介されましたし、仮にクラスメイト以上の関係だとしても恋愛は自由だと私は思っていますの。けれど、この写真を見た女子生徒は何を思うのかしらね」
「脅迫ですか」
「まさか。私はそんなことをする野蛮な輩ではないわ。取引をしましょう。あなたがある条件を飲めば写真はデータごと燃やす。そうでなければこの写真を跡部通信に載せる」

お嬢様のくせにやることは汚いな。というかその前に跡部通信ってなんだ。会報誌か何かなんだろうか。

「その条件は何ですか?」
「条件は……」

何か恐ろしいことを提示されるだろうと思い、ゴクッと生唾を飲み込んだ。

「あなたが跡部倶楽部に加入することよ!」

………え?

「え?」
「ただのクラスメイトがパーティーに出席するなんて、少し勘繰りたくはなるけれど、この際どうでもいいわ!!是非あなたに跡部倶楽部に加入してもらいたいの!!生徒会室で一緒にご飯を食べる仲なのでしょう!?だったら普段の跡部君の行動も知っているはず!だからあなたは私達にそれを報告してもらいたいの!あ、もちろんそれは本人の許可を貰わないといけないけれど、きっとあなたの加入は跡部倶楽部の歴史を変えてくれると思いますの!」

いや、ますの!と力説されても、私跡部に興味なんてないし、困った。

「今すぐに答えが出るとは思いませんからあなたに考える時間を与えましょう。けれど、私は期待をしていますわ」
「……会長の期待に添えることが出来なかった場合は?」
「…その時は、」

会長はベンチから立ち上がり、流し目で私を見据えた。途端に寒気が全身を襲う。

「それなりの覚悟をして待っていなさい」

会長の目が私を突き刺す。本気だ。この人は本気だ。けどすぐに会長はニッコリと笑顔になった。

「冗談ですわ。あまり怯えないでくださらない?あぁ、このことは他言無用でお願いしますね。跡部君にも、秘密でお願いします。では、ごきげんよう」

何事もなかったかのように会長は去っていった。
マジで怖かった。恐ろしかった。腰が抜けそうなぐらい圧を感じた。
滝川玲子、人生最大のピンチを向かえてるのかもしれない。



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