07

私の小さい頃の夢はシンデレラになることだった。今は玉の輿に躍起になっている守銭奴な私だけど、意外と可愛い頃もあったのだ。
なぜそんなことを思い出したかというと、今ドレスアップの真っ最中だからである。淡いピンクのドレスにお着替え中の私は今とても良い気分なのだ。世話をしてくれるメイドさんが三人もいるんだからお姫様気分にもなってしまう。
着替えが終わりメイクと髪型もドレスに合わせてしてもらった。鏡の中の私が嘘みたいに輝いていて、別人みたいだった。

「とても良くお似合いですよ」
「ありがとうございます」
「やはり景吾様のお見立ては間違ってませんでしたね」
「え、これ、跡部君が?」

私が聞くと若いメイドさん達が三人同時ににっこりと笑い、はい、と頷いた。

「滝川様に良く似合うドレスをと、一着ずつ丁寧に見て選んでおりましたよ」
「景吾様にとって、女性をエスコースするのは初めてですからね」
「イヤリングや靴などの小物も全て景吾様が選んだものですよ」

三人のメイドさんがそれぞれ言う。鏡に近付いてイヤリングをじっと見ると赤い宝石がキラッと輝いた。ハイヒールは純白で、こういう清純なものが好みなのかな、と思ってしまう。本人は派手なのに。というか今更だけど跡部の家で跡部が選んだドレスを着てるってなんか不思議だな。

「さぁ、準備は整いました。景吾様の方も整っていると思うので、どうぞこちらに」

ドアが開き、一人のメイドさんに案内される。私は残っている二人のメイドさんに再度お礼を言い、跡部が待っているだろうと思われる部屋に向かった。
通されたところは客間みたいで、準備が終わってる跡部がいた。スーツを着こなしている跡部はいつもよりも大人びて見えて、私は息を呑んだ。素直にかっこいいと思ってしまった。
そうだ、いろいろあって忘れていたけど跡部景吾はかっこいい男なのだ。

「滝川?おい、滝川」
「ぅあ、はい!」
「寝惚けてるのか?」
「寝惚けてない」
「俺様に見惚れてたのか」
「それも、ない!」

多少あるけど。強く否定をするとそうかよ、とその話は終わり、跡部はまじまじと私を見た。

「な、何よ」
「まぁまぁだな」

アンタが選んだドレスでしょ!と心の中でツッコミを入れる。言葉に出さなかったのは昨日のことがあったからだ。社長の言葉がふっと頭に浮かんだ。まぁまぁってことは似合ってるってことかな。似合ってると跡部は言ったんだ。あーめんどくさいなぁこの坊ちゃんは、と思っていても褒められて嬉しくないはずはなく顔がニヤケてしまった。

「顔を緩ませるな。ドレスが汚く映るだろ」
「はいはい、わかりましたよ、跡部。……あー私、跡部のことなんて呼べばいいの?呼び捨てはまずいでしょ。跡部君でいい?」
「呼び捨てで構わない」
「え、跡部って呼んでもいいの?」
「いいわけあるか。名前で呼べ」

えっ、いきなりハードル高くないですか?

「け、けけ、けいごぉ」
「顔引き攣ってるぞ。その顔は引くから止めろ」
「じゃあどうしろっていうのよ」
「さん付けで呼んでみろ」
「け、景吾、さん」
「こっちの方がマシだな」

さん付けでもキツイよ。でも呼び捨てするよりマシか。
呼び方が決まり待っていると部屋のドアがノックされ執事さんがドアを開けた。車の用意が出来たらしい。

「行くぞ、玲子」

そう言って跡部は手を差し伸べて来た。そんな簡単に名前を呼べるなんて跡部はただのイケメンか。あーイケメンでしかも金持ちだった。ずるいなぁ、と思いながら跡部の手を持ち、彼にエスコートされながら歩いていき、車に乗り込んだ。
パーティーの会場となるのは都内有数の有名ホテルだった。会場まで30分近く掛かるらしいので束の間のドライブを楽しむことにする。といっても喋る相手が跡部しかいないので疑問に思っていたことを聞いてみた。

「……跡部はさ、私で良かったわけ?」
「何がだ?」
「パーティーで初エスコートするのが私で」
「親父が決めたことに逆らうつもりなんてねぇよ」
「お父さんが、とかじゃなくて自分はどうなの?私はお金も貰えるし、美味しい料理は食べられて得しかないけど、跡部にとってはメリットなことなんて一つもないよ。私名家のお嬢様じゃないんだし。私が下手な行動をとれば損にもなる。自分の評価が下がるかもしれないのに」
「…お前アホだがバカではないんだな」
「なにそれバカにしてる?」
「してねぇよ。というかお前に下手な行動をとらせないためにわざわざマナーの本をやったんだろ」
「そうだけどさ」
「評価が下がることも気にしてねぇよ。今日の主役は祖父だからな。逆にご機嫌取りに遭うぞ」
「あっそうか」

ドレスが地味目な意味がようやくわかった。そうだよね、あの派手好きな跡部がこんな清純そうな服を好むわけがないよね。今日の主役は跡部のおじいさんだ。自分達はあくまで引き立て役。目立ってはいけないのだ。

「学校であれだけ猫被ってんだ。この役目は最適だろ」
「猫被り言うな!」
「ハッ、本当のことだろ。……一つ気になってたんだがどうして猫を被ってんだ?本来の性格でも多少なりともやっていけるだろ」
「この性格の女の子をお嫁さんにしたいと思う?」
「……思わねぇな」
「ね、そういうことだよ」
「まさか、お前そのためにわざわざ奨学金制度を利用して氷帝に入学したのか?」

跡部は呆れた表情で私を見た。というかコイツなんで私が奨学金で氷帝に通ってること知ってるんだ?まぁ貧乏って知ってるし、奨学金制度に跡部財閥が関わっているから知ってるのも当然か。
どうせくだらない理由だと思ってるんだろうけど私には死活問題だ。きっと跡部は私がどれだけ努力して氷帝に入ったのか知らない。ついこの間ちゃんと会話したぐらいだし、お金持ちに私の気持ちを察しろ、なんて無理な話だ。

「くだらないって、しょうもないって思ってるかもしれないけど、これが私なの。絶対に諦めるもんかって決めて氷帝に入ったの。チャンスは待っててもこないから。だから跡部に笑われたって平気だよ」
「笑わねぇよ」

私は跡部に笑われる覚悟で白状したのだ。
玉の輿に乗りたいとは言わなかったけど賢い跡部だから気付いてるはず。それでも笑わないってどういう心境だ。

「俺は、本気で何かを成し遂げようとしてる奴を笑いはしない。それが例え金持ちの野郎を掴まえることが目的でもな。近道だと思えば氷帝の名を使えばいい。進学や就職に有利なことは間違っちゃねぇからな。そういう使い方もありなんじゃねぇの?ただし、氷帝の名を傷つけることは許さねぇぞ」

跡部がどうして生徒達から人望があるのか少しだけわかった気がした。
というか金持ちの余裕凄すぎか!

「わかってる。上手くやる自信はあるんだから」
「頼もしいな。そういうの、嫌いじゃないぜ」
「え、惚れた?」
「なわけねぇよ」
「ですよねー」

跡部と話をして気が紛れた。バクバク言ってる私の心臓は今緊張のピークだけど、会場に着く頃には和らいでいることだろう。
そして束の間のドライブが終わり、ベンツから降りるとテレビでしか見たことがないホテルの名前が目に入った。ゴクリ、と生唾を飲む。さぁ、いざ行かん!決戦の地へ!



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