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雨だ、と思った瞬間にはザアザアと音を立てて降り始める。ぽつりぽつりと地面を叩いていた音が嘘かと思うほど降り始めた雨に、俺は溜め息をつかざるを得なかった。降水確率20%。その結果がこれだ。見事2割を引き当てた雨は勢いを増し続ける。
こういった時に限って傘はない。いつも持ち歩いている折り畳み傘は荷物が多いからといって置いてきてしまった。これではなんのための折り畳み傘かわからない。ああ、ついてない。こんなことなら早々に帰るべきだった。
素早く荷物をまとめてもその間にさらに雨脚は強まる。人のほとんどいない廊下には雨音だけが響く。足音も話し声も雨音に吸い込まれる。これだけ人が少ないとこんな時間まで残っていたのがバカらしくなってくる。このままでは濡れてしまうけれども帰ろう。
下駄箱から靴を取り出して外を見れば、相変わらず雨が地面を黒く染め続けている。この中帰らなければならないのか。正直、帰りたくない。しかし帰らないわけにもいかない。ひとつ溜め息をついて、意を決して足を踏み出す。
「おにーさん」
雨音の中で声が響いた。
踏み出そうとしていた足を止め、その声に目を向ける。
「そのまま出てったらずぶ濡れですよ」
そんな当たり前のことをその声は言ってのけた。高くも低くもない背の少女がそこには立っていた。上靴の色からして恐らく二年生だろうその子は、やたらと透けるように白い肌をした顔をほんの少し傾けた。
「や、だって傘ないし」
目につく肌の色を見ながらそう返す。しばらく待って雨が止むわけでもないし、傘が手に入るわけでもない。だったら彼女の言う通り濡れてしまうが帰るしかないのである。
俺の言葉に納得したらしい彼女は、そういうことなら、と呟いて鞄から落ち着いた色合いのストライプ柄の折り畳み傘を取り出した。
「これで良ければ使ってください。晴雨兼用で女物なので、少し使いにくいかもしれませんけれど」
「いいの?」
「私は傘があるので」
にこりと笑って俺に折り畳み傘を手渡した彼女は、そのままするりと俺の横を抜けて雨の中に消えていった。俺の手元には彼女の折り畳み傘と雨の独特のにおいが残っていた。

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