この学校でほとんどというより全く知られていない事実。幼馴染みでもなければきっと私も知りはしなかっただろうその事実は、誰かに伝えたところで誰も信じはしないだろう。それほど当人からは想像もできない事実で、もともとその事実しか知らない私としては逆に広く知れわたっていることの方が信じられないことなのだけれども。
道を歩けば誰かしらが振り返り、微笑めば恋に落ちる少女は少なくない。所謂イケメンで人当たりがよく、勉強や運動もそこそこできてしまう人間。それがトウヤという私の幼馴染みの説明である。一般的に言う完璧な人間であるトウヤには知られていない事実がある。
初めに断っておくが、そうたいした事実ではないということを承知しておいてもらいたい。そのこと自体はたいしたことではない。むしろそれがトウヤに当てはまるというのが問題点である。他の誰でもない、トウヤだからこそ私は驚きを隠せないのだ。なんとも不思議な気分である。
本題に入ろう。学校内でこそ完璧な人間とされているトウヤであるが、学校外では真逆なのだ。制服を着こなし、髪を綺麗にセットしたトウヤしか知られていないが、彼の私服は酷いものである。髪はボサボサとまではいかないものの無造作ヘアーと呼ぶには心苦しいものがあるし、ファッションは基本着られればいいのかなんともまあ微妙なものである。正直言って芋だ。芋ファッションと呼ぶのが合っている気がする。どこかがずれた、整えたら良くなるだろうにと思われるようなそんな見た目をしている。
そんな見た目だったから高校に入って完璧に整えられたトウヤを見たときの衝撃は例えようのないものだった。思わずどちら様か尋ねそうになったほどだ。一言で言えばまったくの別人。高校デビューなんてものじゃない。人間の恐ろしさを知ったと言っても過言ではなかった。相変わらず私服は芋ファッションであったが。
この高校には同じ中学からは私とトウヤ以外には通う人はいなかったものだから、このことを知るのは必然的に私とトウヤしかいない。それが少しだけ嬉しくて、少しだけ悲しい。私だけが知っている嬉しさと、私の知らないトウヤがあると知ったことに対する悲しみ。少しの優越感と少しの劣等感に板挟みだ。髪型もファッションも整えなくてよかったのに。トウヤのいいところは私だけが知っていればいいのに。そんな汚い感情を抱きながら今日もまた私はトウヤと接するのだ。


私を醜くさせないで


ただの幼馴染みなら私は私でいられたの。

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