目が合うと、彼はいつも微笑んだ。
それまではいつも、苦しそうにどこかを見つめている。声もかけられないくらい辛そうに何かをひとり思い詰めている。唇を噛み締めて普段より下がった口許も、ぐっと握り締めて掌に食い込んだ爪も、彼は隠していても私は知っている。知っていても私にはどうすることもできない。どうにかしようとしても、彼は全てを誤魔化すように笑うだけなのだ。それが私は嫌で嫌で仕方がない。私が見たいのはそんな笑顔じゃないのに。
「トウヤくんには笑ってほしくないな」
本心を混ぜたこんな言葉も、彼は笑って受け止めるのでしょう。そんな笑顔で誤魔化さないでほしい。もう少しだけ周りを頼ってほしい。この想いすら知らずに彼はまた笑うのだ。
「なんでそんなこと思ったの?」
私を責めるわけでもなく、自分を変えるでもなく彼はまた笑った。少し困ったように目を細めて笑った。その顔が私の胸を締めつける。そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
「トウヤくんが笑うからだよ」
楽しくもないのにね、そう笑えば彼の笑顔が消える。それでいい。無理に笑ってほしいわけではないのだから。笑うならあくまでも自然に笑ってほしい。
「英雄になりたかったわけじゃないのでしょう?なのに噂が先走って逃げられなくなった。決められたストーリーみたいに話が進んでいって、英雄に選ばれて、世界を救った。でもトウヤくんがそれを望んでしたわけじゃない」
「……それを、どうして知っているの?」
「私は違う窓枠から見ていたから。だからもう帰らなきゃ」
納得のいかない顔のトウヤくんに触れようとして手を止めた。きっと私には触れられない。次元の違う話は誰にも信じてもらえないから。
「いつかきっと気持ちをわかってくれる人に出逢える。そしたらそんな笑い方じゃなくて、心から笑えるよ。ひとりで抱え込まないで」
私がその人になれないのはわかっているから、だからこそ幸せを願う。この世界で一番幸せになってほしい。これはただの自己満足で、自己中心的な考えだとはわかっている。彼のためを思ってじゃない。彼に心から笑ってほしいのは他でもない私だ。
なにかが消えてく音がする。ゆっくりと確実になにかが消えてく。止めることはできない。
「!……アズサ」
お終いがこんな顔だなんてやっぱり嫌だけど、彼が私を想っての顔なら嬉しい。あと少しの時間も残っていないけれど。
あとひとつだけ


願えるならば、


生まれ変わったら同じ世界で貴方を抱きしめたい。

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