また、夢だ。これは夢だ。私は夢を見ている。
いつも私は廊下に立っていて、朝早くの私以外誰もいないその廊下であの人を待っている。秋になりかけの朝の廊下は冷える。窓は閉まっているものの夜の冷気を含んだ廊下の寒さを夢ながらはっきりと感じる。未だに衣替えをしていない制服のスカートから覗く脚に寒さが凍みる。窓から射し込む朝陽だけがほんのりと暖かい。
しばらくすれば彼が来る。そろそろ夢も終盤だ。彼が来た。人のいない廊下に足音だけが響く。その音が次第に大きくなっていく。
「寒い中待たせてごめん」
いつものように彼は私を見つけると早足になって駆けてくれる。そしてそう私に笑いかけるのだ。その言葉に首を振って私は口を開く。一呼吸置いて、はっきり聞こえるように言葉にする。どうか届け、と想いを込めて。
「あの、トウヤくんが好きです」
何度繰り返しても変わることのない言葉を私はまた彼にぶつけるのだ。そうすればそろそろ夢も終わる。
そして嬉しそうに、悲しそうに、彼は言葉を紡ぐのです。
「       」
私には聞こえぬ言葉を聞いて、私は夢から覚める。朝だ。朝が来た。こうして私の一日が始まる。
時が来ればまた、私は夢を見るのだ。
いつも通りにまだ秋の来ない朝の廊下で彼を待つ。素足に当たる空気が冷たい。ほんのりと窓から射し込む朝陽に暖かさを感じれば、ほら彼が来る。廊下に反響する彼の足音が心地よい。
「寒い中待たせてごめん」
その言葉に首を振れば、夢が覚めるのも時間の問題。一呼吸。息を吸い込んであの言葉を私は口にする。
「あの、トウヤくんが好きです」
そうすれば彼はまた私には聞こえぬ言葉を重ねるのだ。嬉しそうに、悲しそうに。
「現実で伝えてよ」
初めて聞いたその声に私は飛び起きた。起きずにはいられなかった。私は行かなくてはならない。
いつもの数倍速く支度を済ませて家を飛び出る。階段を駆け上がれば、いつもの廊下が待っている。ただ違うのはそこに彼が立っていることと、身体が熱を帯びていることだけ。
「今日はアズサさんを寒い中待たせなくて済んでよかった」
世の中にはこんな不思議なことがあるのだろうか。これこそ夢なのではないか。夢だったらどうしようか。そんなことは頭の隅に置いておいて一呼吸。息を整えたらはっきりと言葉を紡ぐ。
さあ、言うんだ。お決まりの台詞を言うんだ。そうすれば全てが終わって全てが始まる。
「あの、」


お決まりの台詞を


もう一度伝えなきゃ。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -