もし、誰かが言う運命なんてものがあったとしたら。
きっと私と貴方は知り合ってはいただろうし、少なくともこうやって廊下ですれ違うだけの関係ではなかったと思う。私に向けられることのない声に想いを馳せたりはしなかっただろうし、ましてや貴方の行動ひとつに一喜一憂することすらなかったのだと思う。
廊下ですれ違えば話に花を咲かせ、私に向けられる声の尊さに気づくこともなく、当然の如く貴方と行動を共にする。もしかしたら所謂恋仲になっていたのかもしれない。幸せを幸せだと感じずに日々を過ごしていたのかもしれない。
幸せに気づかない幸せと、幸せに気づく不幸。幸か不幸かははっきりしていても、人によってはそれが本当に幸せとは限らない。
これは例えばの話。現に私とトウヤくんの間には関係なんてなにもない。しいて言うならば、廊下ですれ違い、私が一方的に想いを寄せる関係。互いの意識は交わらない。きっとトウヤくんは私の存在など知りもしないのだろう。トウヤくんの世界に私はいない。私は存在していないのだ。私の不幸で、最大の幸運。私の作り出したもの。不幸の中でだって幸運を見出だせる。
運命なんていらないのかもしれない。ただそこに貴方が存在しているだけで幸せなのだから。貴方がこの世に存在した運命だけあれば私はそれで十分だ。
たったひとつの運命だけがある、最高の幸せ。私は幸せだ。


世界はこんなにも


美しく、幸福に満ち溢れている。

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