これだけは言える。私はトウヤくんが好きだ。所謂一目惚れというやつには違いないが見た目に惚れたわけではなくて、トウヤくんの後ろ姿を見た瞬間にこの人のこと好きになりそうって直感が告げていた。
私には何か誇れることはない。特にこれといって優れているわけでも、特別かわいいといったわけでもない。私はごく普通の、ただの高校生だ。それを悩んだことも悔やんだこともない。少しだけトウヤくんの目にとまることができないことが悲しいけれど。
トウヤくんを好きだからといってトウヤくんに近づこうとか好きになってもらおうとかそういうことは思わない。そもそも好きになってもらえるとは思わないし、トウヤくんにだって好みはある。想われなくても想えればそれでいい。無理矢理聞き出してきた友人には欲がないと言われたが、私はそれで十分満足だ。
本当にそれだけで幸せだった。
「ねえ、」
誰かが誰かを呼ぶ声がして辺りを見回す。けれどその声の主と私以外いなくて、私を呼んでいるのかなと思って、そして振り向く。私は呼ばれて振り向いたんだ。
「――え」
思わず目を疑った。冗談だと思った。でも目を目一杯開いてもそこにいる人は変わらなくて、心臓がどきりと高鳴った。誰だって話したこともない好きな人に呼び止められるとは思わないでしょう?
「アズサさんだよね」
「う、うん」
「あの、いきなりこんなこと言われたら困るだろうけど」
トウヤくんの瞳がこちらを向いている。トウヤくんに呼び止められている。トウヤくんが、私に話しかけている。それだけでやはり私はこの人が好きなんだって思った。片想いで十分幸せだ。
「好きなんだ、アズサさん」
その言葉が発せられた瞬間、何かが崩れた。ガラス細工の置物が床に叩きつけられたように、確かに何かが砕け落ちた音。
私には、そんな言葉はいらなかったんだ。


私は多くは望まない。


片想いでよかった、片想いがよかった。

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