どこから話そうか。立ち話をするにも内容はあまり聞かれたくないものだし、話せば長くなるので、とりあえずトウヤをアパートの私の部屋に押し込む。部屋に入れるのは色々な意味で気が乗らなかったが、話が漏れる心配もないし、女には困っていないだろうトウヤだからそっちの心配も必要ない。まぁいいか、と他人事のように思いながら紅茶を煎れ、トウヤを出す。紅茶に口をつけ、一息つき、口を開く。
「トウヤさぁ…、聞かれたくないことじゃないか、とか考えないわけ?」
「別に、話したくないなら普通家に入れないでしょ」
「さっすが、トウヤくん。よくお分かりで」
自然と口角が上がる。トウヤの溜め息と視線はスルーして紅茶を口に入れる。いつも自分の煎れるアールグレイの香りが口に広がった。
「まぁなんとなく分かってるだろうけど、こうなったのはアサミが原因。」
「アサミってさっき会った人?」
「そう」
私はしっかりと頷く。
「偶然二人で入った店に強盗があらわれたの。こんなこと滅多にないから戸惑ったけど、アサミは守らなきゃって思った」
仮にも親友だったし?、と続けると、トウヤの眉間にシワが寄った。
「でもアサミは違った。何も考えずに庇って前に出ようとすると、しっかりと背中を押されたのを感じた。その手はアサミので、驚いて振り返ると私を置いて逃げるアサミが見えた」
忘れない、あの絶望感だけは。何が起きているのか必死で考えても頭がついていけなかった。アサミの後ろ姿がやけにはっきり見え、虚無感が私を包んだ。
「当然すぐ近くに来た強盗に人質にされるし、手に持っていた銃を突き付けられた。この時は本気で死を覚悟した」
トウヤと視線が交わる。私は笑顔を浮かべる。
「キリはどうやって助かったの?」
「簡単だよ、警察が駆け付けて事件は終わった」
「……」
「その後ね、アサミに謝られたの。恐かった、死にたくなかったんだって」
目を細め、紅茶を口にする。今思い出すだけで反吐が出る。
「なら私だって恐かった、死にたくなかった」
恐くないわけがない。私だってそこまで心は強くない。アサミだけが恐かったなんてあるはずがない。
「それがあってから人間が信じられないの。たとえ家族でもね」
いくら絆を深めようとも、それは些細なことで簡単に崩れることを知ってしまった。崩れると知っていて再び積み上げるのは恐い。だったら最初から積み上げなければいい。臆病な私はそうするしか出来ない。
「だから、私は猫を被るの」


そしてわらう


どうしてトウヤに話したのかなんてわからないよ。





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