放課後、教室を出て旧図書室へ向かうトウヤの後ろ姿を眺めながら、私は本のページを静かにめくった。出来ることなら旧図書室で読んでいたいけれど、わざわざ人が告白されると知っていながら足を進めるほど野暮じゃない。誰もいない教室で舌打ちをひとつ。さっさと帰ってしまうことも出来たけれど、自分のイメージを守るためには待つことが得策だ。たとえ相手が同じ猫被りのトウヤであっても、トウヤが私の猫被りに気付いていない今は出来ない。
「ごめん、待たせた」
「いいよ。すっぽかしたら相手に失礼だもんね」
割と急いで来たらしいトウヤの鞄と自分の鞄を掴んで立ち上がる。その鞄をトウヤに手渡し、歩きだす。最寄りのスーパーまで約3分、そこから私の住むアパートまで約2分。
「あの…っ、もしかしてキリ…?」
それは後半の2分間のことだ。その短い距離の中で出会ってしまった。作っていた笑顔でさえも自然と消えていくのがわかる。私を呼んだ声の方をゆっくり振り返り、そいつの名前を呼ぶ。
「アサミ」
自分でも感情が篭っていないのがはっきりとわかった。久しぶりに見た彼女はほとんど変わりなく、それに異様なほど腹が立った。
「本当に、キリ…なの…?あの、私ずっと…キリに謝りたく、て」
今更遅いのはわかってるけど、と続ける彼女には目もくれず、横目でトウヤを盗み見る。トウヤは多分この不穏な空気に気付いたのか、少し表情が強張った。
それを確認すると私は早急に笑顔を貼り付け、彼女に駆け寄り、抱き着いた。
「もう、いいの。私もアサミの立場だったらああしちゃうもん」
「キリ…。っありが…」
耳元で啜り泣く声が聞こえた。彼女の耳元に口を近づけ、トウヤに聞こえないようそっと呟く。
「…なんて、言うとでも思ったぁ?」
彼女の身体が硬直するのが腕に伝わってきた。私の怒りが声に篭る。トウヤからは口が見えない角度で話しを進める。
「空気読めないのは相変わらずなのねぇ。そういうところ、だいっ嫌い」
「…キリ、」
「名前なんて呼ばないでよ、気持ち悪い」
彼女を抱きしめる手を強め、明るい声に切り替える。
「話したいことはいっぱいあるんだけど、トウヤ待たせてるから行くね。時間あったらメールしたいんだけど、アドレス変わってない?」
「……うん」
じゃあね、と手を離し、トウヤに駆け寄る。もちろんメールなどする気はさらさらない。彼女は来るはずのないメールを待ち続けるのだろうか。それとも待ち兼ねてもう使われていないアドレスにメールを送るのだろうか。どちらにしろ私には関係ない。もう会うつもりはないのだから。
「待たせてごめんね。行こっか」
トウヤに微笑み、足を進める。後ろは振り返らない。


さようなら


もう会うことのないかつて親友だった人。





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