あれから数日経った。何が変わったかというわけではないけれども、唯一変わったというならばトウヤといることが多くなったことか。きっとトウヤは私を見張っているだけなのだろうけど。
「キリ!」
「あ、トウヤ」
昼休みに入り、旧図書室に向かおうと教室を出ると、トウヤに呼び止められる。もうほぼ毎日だけど、そのことには気付かないふりをする。
「どうしたの?」
「今日母さんに買い物頼まれたんだけど、一緒に来てくれない?」
特に用もなく断るのも不自然だから首を縦に振ろうとしたが、ふとあることを思い出す。
「放課後…だよね」
「あ、もしかして用ある?」
言っておくが、用はない。正確には私は用はない。私の記憶が正しければ、トウヤはひとつ前の休み時間に放課後旧図書室に来て、と外見はとても可愛らしい女の子に呼び出されていた。根は歪んでいるトウヤだが、イメージを守るためか呼び出しに答えはしないものの、出向いてはいる。
それはつまり、私を待たせる気満々ということだ。まったくもって性格が悪い。
「ううん、大丈夫だよ」
用があるのはテメーだろ、このペテン師が、と思いながらも笑顔で答える自分を褒めたたえたい。
「よかった。あ、引き留めてごめんね」
「特に急いでないから気にしないで」
謝るくらいならはじめから呼び止めないで欲しいとつくづく思う。それでも笑顔だけは絶やさず旧図書室へ向かう。この笑顔を張り付けるのにも慣れてしまった。人を避けるために身につけたこの笑顔。誰もがこれが本当の笑顔だと疑わないほど私の顔に馴染んでしまった。
私は笑わない。きっとトウヤも同じだろう。作り笑顔で人を遠ざけ、人を信じることを忘れてしまった。私はどんなに人間は信じられないものか知っている。私の人間への不信感は深い。それはきっとトウヤよりもずっとずっと深い。親友だと思い込んでいた人からの裏切りで、死を悟るほどの経験は実際に経験しなければわからない。むしろ同情などされたくはない。トウヤにだってわからない。
緩く私の底の方で何かがうごめくのを感じる。イラつきがつのる。この感情を何と形容しようか。


このきょりかん


蟠りひとつ落っこちた。





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