私がその出来事に驚いたかと聞かれればYes、信じられないかと聞かれれば答えはNoだ。ただ少し意外だと感じただけだ。私が普段していることを他の人がしているのに気付いて驚いただけの話。どうということはない。
普段していることとは言わずもがな猫被りのことである。人が生きていく上で猫被りなんてものは日常的にしてしまうことで、それ自体にはなんの問題もないと私は思う。ただ私が驚いたのはしている人とその頻度である。

新しい席での人間関係築きも上々で隣の席のトウヤともなかなかだ。高校に入学するにあたって1人暮らしを始めた私のアパートとトウヤの家は意外にも近くにあることも判明した。
その日は席替えからちょうど2週間経った日だった。その日も人がほとんど寄りつかない旧図書室に私はいた。ここは主に授業用の資料や学生の興味をひかないような本しかなく、そういった本が好きで人を避けたい私にはまさに楽園と言っても過言ではない。いつものように本を手に取り、奥の方でページをめくる。
いつもなら静かにゆっくりと時間が過ぎていくだけのこの空間が今日は少し違った。極稀にいるのだ、告白の場所としてこの場所を使う生徒が。足音が2つ聞こえ、ドアの閉まる音がする方をこっそり覗くと、案の定少女が顔を紅に染めながら必死に思いを伝える姿がそこにあった。いつものことかとやや飽きれながら相手を見ると、見覚えのある私の隣の席のトウヤだった。記憶が正しければ今月に入ってトウヤがこの場で告白をされていたのは2回目だ。どれだけモテるんだこの男。
物陰からとはいえ見られるのは嫌だろうと再び身を潜める。少女よ、ご愁傷様。私はトウヤが告白されて肯定しているのを見たことがないよ。
案の定謝罪の言葉が聞こえ、少女らしき足音が去っていく。さあトウヤ、早く図書室から出ていけと心の中で思った瞬間、トウヤの声がやけにはっきりと聞こえた。
「ばっかじゃねーの」
正直に言おう、驚いた。爽やかの固まりのようなトウヤがそんなことを言うとは思いもしなかった。
「顔に騙されちゃって可哀相なやつら。あほらしい」
自分は本当に驚いたらしく、うっかり手に持っていた本が落ちるのが見えた。本と床が触れ合う乾いた音が響いた。
「誰?」
脳内で小さく警告音が鳴った。咄嗟に頭をフル回転させ、演技の準備を整える。
「と、トウヤ…」
少し顔をひきつらせ脅えたふりをする。
「キリか…。今の聞いてたよね」
「えっ…と、」
「どうなってるかわからないって顔してる。」
トウヤは私を指差すとくすりと笑った。


みーちゃった。


面倒事こんにちは。





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