呆れた。トウヤは何を言った?自分だけでも信じて欲しい、だなんて。
信じたいと思って信じられるなら、疾っくの昔に信じられている。今更こんなことで悩んではいない。
ぱたん、と音を立てて開いたままだった本を閉じる。
「…信じられたらいいのにねぇ」
本を棚に戻しながら独り言の様に呟く。苦笑を浮かべながらトウヤに振り返ると、ちょうどチャイムが鳴った。
「授業始まるから戻ろうか」
腑に落ちない様子のトウヤを引き連れ、廊下に出る。終始無言で廊下を進む。トウヤは気不味そうな、悔しそうな表情で後ろをついて来る。
「トウヤ、その顔戻さなくていいの?」
私は急に立ち止まって、トウヤの眉間を人差し指でぐりぐりと押す。
「…いい」
トウヤのか細い声が廊下に響いた。
「もう、いいよ」
「…トウヤ?」
きっとトウヤの中の何かが今変わった、そう確信した。
「人からどう思われていようとどうでもいい。猫を被るのはもう止める」
「急にどうしちゃったの」
「…もう少しちゃんと人間を知るよ。それから信じるか信じないかを決める」
「……ふぅん」
トウヤは覚悟を決めた。私にはそれが出来ない。ただ、それだけ。それだけ、なのに。少しだけ、悔しい。
「キリ、それが出来たらさっきの返事が欲しい」
ずっと私とトウヤは同じだと思っていた。同じ様に猫を被って、同じ様に人を拒絶して。なんとなくホッとしていた。
だけど実際にはそんなことはなくて、トウヤの方が何倍も大人だった。私は幼稚に逃げていただけ。
わかってるんだ。私はトウヤなら信じられる。いや、信じたいと思っていることを。幼稚な私はまた少しだけ逃げる。
「わかった。そんなに私に人を信じて欲しいなら、」
私は笑う。トウヤと私の未来に思いを馳せながら。
「だったらトウヤが信じさせてよ」


わんだふるでぃず


それはそれは、とても素晴らしい日々。





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