今俺は何と言おうとしていた?口を噤んだ言葉は何だ?「でも」に何と繋げようとした?
自分でも何を言いたかったのかわからなくて、でも何かを伝えたくて、うまく言葉に出来なくて飲み込んだ。多分今までの俺が絶対に言わない言葉。きっと自分に縁遠い言葉。それでもキリに伝えたかった、のだと思う言葉。それが何かなんてさっぱりだけど。
あれから数日。キリとの関係は何もなかったかの様に変わりはない。というよりも何か行動を起こしても、のらりくらりとキリは躱す。その躱し方は見事なもので、キリが人を拒んだ期間をありありと見せつけられた様な気がして、なんとなく胸が締め付けられた。
キリの笑顔も何も変わらなかった。俺が話しかけてもあの日以前のままなんら変わりのない笑顔。まるであの日がなかったかのように。
でもそれを認めたくなくて、キリを探す。いつもの場所が真っ先に浮かんで少し小走りになる。何かにこんなにも執着しているのはいつ以来だろうか。遠くなった過去に思いを馳せながら旧図書室のドアに手をかけた。
ドアを開けて一番奥の角まで進む。いつもの様にキリがいて、安堵したのと同時に少し寂しい。変わらない嬉しさと何も変わらない虚しさが入り混じる。
「キリ」
「トウヤか…、何?」
俺の姿を見た途端に冷えたキリの目があの日は幻想ではないのだと物語っていて、少しだけホッとする。
「ちょっと確かめたくて」
「ふぅん。確かめてもトウヤに良いことなんてないと思うけど」
「ただの自己満足だから」
「別に誰かに言ってもいいよ、キリは猫被りだってね」
「言ったらキリも俺のことばらすんでしょ」
「当たり前でしょうが」
クスクスと普段とは違う笑顔でキリは笑った。その自然な笑顔がなんだか無性に嬉しくて、つい自分も釣られて笑ってしまう。猫被りな優しい話し方ではなくて、もっと自然な刺々しい言葉も俺しか知らないのだと思うと少しだけ優越感を感じる。
「ねぇ、キリ」
今わかったあの時言いたかった言葉。たとえ拒絶されたとしても、今言いたい。
「俺だけでも信じて欲しい」
その一言は自覚してしまえばすんなりと胸に溶けていく。


えがおのきみに


俺はキリが好きみたいだ。





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