小説 | ナノ


私、メンタルは強いんです。なんていうんですか?鈍感?とかよく友人に言われるんです。私はそんな風に思ってはいないんですけどね。でも、一応、そういうことにしておきます。そうそう、私、彼氏がいたんです。誰だと思います?……分かりませんか?正解は、南沢くんです。あの、とってもカッコイイ、南沢篤志くんです。サッカー部の。そんなに驚かないでください。本当ですよ。告白はあっちからです。私、南沢くんのこと正直よく知らなかったんです。でも、付き合うことになりました。南沢くん、とっても優しいんです。私のこと、女の子扱いしてくれます。絶対に南沢くんは私と帰るとき、車道側歩くんです。私、今まで彼氏とかいなかったので、すごく嬉しかったです。南沢くん、男の子にしたら背が低いことを気にしてて、すごくかわいいなぁって思ってました。
でも、でもですね。南沢くんと付き合ってるって友人に話したら揃いも揃って難しい顔をするんです。失礼ですよね。みんな、口をそろえて言うんです。「遊ばれてるんじゃない」って。私、噂とか、そういうのに疎いんです。だから知らなかったんですけど、南沢くんって女の子をとっかえひっかえしてるんですって。知りませんでした。そのことを知ったとき、胸がずきっとは、しました。でもそれだけです。怒りとか悲しみとか、そういう感情は生まれてきませんでした。ホラ、メンタルは強いんです。いや、ずきっなんてもんじゃありません。ず、ぐらいのショックでした。
みんな「早く別れた方がいいよ。これはなまえのために言ってるんだよ」って。でも、私別れたくなかったし、何より南沢くんのこと、信じてたんです。南沢くん、付き合うときに言ったんですよ。「何があっても、俺のことは信じて」って。そんなこと言われたら、信じるしかないじゃないですか、南沢くんのこと。

そしたらですねぇ、今日、言われちゃったんですよ。「別れよう」って。あ、これは流石にびっくりしました。何も言えずにいたら「なまえは綺麗すぎる。俺とは不釣り合いだよ。もっと他に良い奴、いるよ」って。そんなこと、あるわけないじゃないですか。他に良い奴って、南沢くんが最高に良い奴じゃないですか。南沢くん以上の人、いるわけないじゃないですか。「でも、俺、確信してるんだ。これから色んな奴と付き合うかもしれないけど、最終的になまえのところに帰ってくるよ。」「だから、俺のこと信じてて」って。なんていうか、条件反射っていうんですか?頷いちゃったんです。そしたら南沢くん、ありがとうって言って、ばいばいされました。私、南沢くんのことずっとずっと信じてます。

それで、しばらく呆然としちゃったんですけど、あ、帰らなきゃって、我に返ったんです。学校だったんで。この切り替えの早さ。ホラ、私ってメンタル強いでしょう。鞄持って、南沢くんが出て行った扉から私も出て、下駄箱に向かいました。このとき、何を考えていたのか分からないんです。扉から出て、下駄箱に向かうまで、私がどんな感情だったかわかんないです。覚えていないんです。変ですよね。
ローファーに履き替えて、ふと、外を見たんです。何でかはわかりません。自然と、何となく見たんです。
そしたら南沢くん、私よりもずっと綺麗な髪を持った、私よりもずっと細い足を持った、私なんかより、ずっとずっと可愛い女の子と、並んでました。私に見せていた、笑顔を一緒に。

そんな今日のできごとを、布団の中で思い出してる現在なわけなのですが。おかしいんです。放課後から、私。晩御飯も半分残しちゃったし、楽しみにしてたドラマも見ずにお風呂入って、布団の中ですよ。お母さんに、熱でもあるのって聞かれました。
明日からは南沢くんとは帰れないんだなぁとか明日からはもう名前で呼んでくれないんだなぁとか明日からは友達なんだなぁとか。そんなことばっかりなんです。でも、ホラ、私、メンタルは強いですから。こんなの寝ちゃえば忘れちゃいます。でも、布団に入ってかれこれ一時間以上経ってると思うんですが、一向に眠れる気配がないんですよね。なんだか、頭が冴えちゃって。おかしいなー。明日からはあの可愛い子が南沢くんの、彼女なのかなぁって。そんなのこと考えてたら鼻の奥がツンとしました。気づいたら目から何かこぼれてきました。一つ、二つ、三つ。なんだか徐々に量が増えてる、気がします。あ、私、泣いてる。

私、メンタルは強いんです。本当なんです。





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