小説 | ナノ


都会の喧騒に埋もれていれば、一人にはならないと不確かなまるで根拠もない理由で都会にくりだしていた。都会の喧騒に鼓膜を揺らし、その一部になることが出来ているような気がして私はその時だけは一抹の不安を拭っている気がした。何処に向かうかわからないけれどひたすらに足を動かすことで前に進んでいると、勝手に決めつけていた。埋もれて浸っているときはあんなにも心地よかったのに、帰りの電車は虚無感に包まれて温度などまったく感じない程で冷たく凍されたような痛みを感じると私は理解している。なのに、こんな馬鹿みたいなことをずっと続けているのだ。
冬の寒さを身体で感じていると思い出すことがある。

「冬ってどうして出来るんだと思う?」

いつだったか、南沢に尋ねたことがある。図書委員が一緒で並んでカウンターに座り私は飴を口のなかで転がしてとかしたあと、寂しくなって問いかけたのだ。寂しさを少しでも紛らわしたくて、曖昧な返事をする南沢に眉を顰めたあと、私は口を開くのだ。

「冬ってどこか、寂しいでしょ?だから、寂しい気持ちがあるから、冬が出来るんだと思う。」

何も考えていない南沢はすぐに返事をする。

「神話みたいだな」

違うよってすぐさま返事が出来たならどんなによかったんだろうか、私がいいたいのはそんなことじゃないよ。そんなことも全部わかってるんでしょう。私のいいたいこと、一つも考えずに避けて通っていってるの、わかるんだよ。気づいていないと、気づくわけないと思ってるんでしょう。

教室に埋もれるクラスメイトも、教壇に立つ先生も、南沢も、全員、そう。本当の自分の感情を隠してる。みんな演技してる。与えられた台詞と演技で行動を起こすの。だってそっちの方が楽だもんね。争いごとたてたくないもんね。誰からも恨みを買われたりしないもんね。面倒事から避けて生きているんでしょう。何かをやりたくても誰かが準備してくれなきゃ何も行動しないでしょう。好機が転がり込んできたら、そこで漸く行動するんでしょう。

だから私、南沢のこと大好きだけど大嫌いだよ。
関心があるように見せかけて誰にも、何も関心なんて抱いていない南沢が。

ぽつ、と右頬に何かが叩いた。私も人間になれたのかと思って指ではらってみると今度は左頬が叩かれる。あ。雨。と思ったときにはぽつぽつぽつと止めどなく降り始めていた。人間になれただなんて、おこがましい。周りの他人たちがばたばたと行動しだす景色をぼんやりと見つめる。傘なんて持ってきてないや。どっかで雨宿りしなくちゃ、だな。どうせなら雪が降って欲しかった。雪はとても寂しがりだから、すぐにとけて水滴にかわってしまう。みんなと一緒がいい、と。みんな、寂しがり。私も雪と一緒にきえてとけてしまいたかった。
雨の滴がタイツに染み込んでそこから体温を奪われる。ひんやりとした感触。南沢の温度を思い出した。冬の寒さにも、雨の冷たさにも似ている南沢の冷たい温度。私に対して、無関心。もしかしたら、風邪ひくのかな。風邪ひいたら南沢は、傍にいてくれる?私のために少しでも頭を使ってくれるの?関心を抱いてくれるかな。やっぱり、ダメかな。私じゃ南沢の1番になれないのかなぁ。もう南沢じゃなくてもいい。誰か、私の傍にいてくれる?ねぇ。お願い。会いにきて。誰か、この冬の雨のなかから私のために、私を助けるためだけに会いにきて。誰かの1番になりたいよ。これってわがまま?誰か傍にいて、なんて餓鬼みたいな戯言を綺麗に並べて、蹴り飛ばす。あぁ、もうだから、誰かちゃんと叱ってよ。餓鬼だよって。誰か、ちゃんと教育して。




image song 群青日和/東京事変




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