小説 | ナノ


「カイー」

太陽の恵みをいっぱいに受けて心地が良い。足元の花を踏まないようにして、ぐっと力をこめて立つ。ここにいると自然の力を身体のいたるところから感じる。足元から伝わる大地とか、肌から伝わる風とか。ぶんぶんと右腕を振ってエンシャントダークのみんなと何か談笑しているカイを呼ぶ。私の声にエンシャントダークのみんなが振り返った。木屋くんと久雲くんがにやにやしているのに対し、シュウくんは目尻を下げてにっこり優しく笑いかけてくれた。シュウくんは優しい。木屋くんも、久雲くんも見習った方がいいと思う。カイがみんなに何か言ったあと、私に向かって走って来てくれた。

「どうかした?」
「ちょっとカイに渡したいものがあってさ。」

そう言って左腕に持っていたバスケットを両腕で持ち替えて頭の高さにまであげる。自然と頬が緩んでしまってえへへ、みたいなそんなおかしな声まで零れてしまった。カイはやれやれと呆れたように、困ったように笑う。カイの笑顔には不思議な力がある。カイが笑うと私も笑いたくなって、さわさわと風が優しく肌を撫でるように穏やかさが胸に響き渡る。風が優しく森の木々を揺らしてかさかさとちいさな音を鳴らした。カイの前髪もさらさらとすべっていた。そんな一瞬がとてつもなく愛しい。

なぁに、それ。その言葉を待ってました!バスケットにかけておいた赤のギンガムチェックの布をばっと抜き取る。カイがバスケットを覗き込むと不思議そうな顔をしていて、いつもぼんやりしたカイには珍しい表情だった。

「なまえってクッキーなんて作れたっけ?」
「出来ないからつくったんだよ」
「……」
「だ、大丈夫だよ、ちゃんと味見したし、食べれるよ。」
「心配だなぁ」

カイが眉をハの字にする。ちゃんと味見して、今こうして立っているのだから大丈夫なはず。何かを誰かのために作るというのは思っていたよりも達成感とか、責任感とか、重みを感じた。だけれど誰か、がカイだと思うとそんな重みも愛しいものにかわっていく。カイに笑って欲しくて。カイに食べて幸せになって欲しくて。料理は難しかったけれどそれよりカイのことを考えながら何かをするのは楽しかった。人の為に何かをするというのは悪いことじゃない。

「どれ」

いただきます、とカイが言って丸いクッキーを一枚、かじる。私も一枚つまんでカイと同じようにかじる。売っているものと比べたらやっぱり全然で、なんだかもさもさする。いかにも手作りですという味。食べられないわけではないけれど。でも、今まで全然料理してこなかったことからしてみたら、十分でしょう。私にしては上出来だと思うことにした。

「あぁ、おいしい。」

カイが意外とでも言いたそうに言った。カイにおいしいと、幸せになってほしくて作ったから、これは成功したということになるのだろうか。もさもさ。もさもさ。カイが一枚食べ終わってもう一枚手を伸ばしてまた一枚かじる。私は一枚で十分だ。まだまだバスケットの中にはクッキーが並べられている。

「これさ、持ち帰ってもいいかな」
「いいけど、みんなにあげるの?」
「あげるわけないだろ。なまえがつくってくれたんだから」

また風がふわりと揺らす。爽やかな木が、安らぐ花が、カイの前髪が。さわさわと耳に優しく音が遊ぶ。どこからかふんわりと甘い香りが漂った。目に塵がはいったら怖いから瞼をおろしてしまったけれど、カイは私に安らぎを与えるように微笑んでいるのだろう。


title by 未来標本




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