小説 | ナノ


「つ、付き合って、ください」

がばり、と勢いよく腰を九十度に曲げてクラスでそこそこ仲の良い半田に頼まれた。頼まれたって言い方はおかしいか。半田、ね。嫌いじゃない。悪い人じゃない。でもそれ以上の感情なんてなくて、一緒にいたいなんて思ったことは一度もない。断るべきなんだろうけど断って気まずくなるのは嫌だな。変な噂が出回っても嫌だし。

「いいよ。付き合おう。」

私も好きだよって付け足して笑って言えば分かりやすく顔を赤く染めた。本当に私のこと好きなんだ。なんか不思議な感じ。ありがとう、ありがとう、と何度も言ってへにゃりと半田は笑った。


「なぁ、一緒に帰ろ?」
授業が終わって帰りのホームルームを待っていたとき、半田が私の傍に来て、呟くように、独り言のように尋ねてきた。不安という感情が現れていて、半田ってわかりやすいなぁ。と他人事のように思った。実際他人だけど。
一緒に帰るのは全然かまわない。だけど誰かに見られるのは嫌。だって半田と付き合ってるの広まったら嫌だもん。自分で思うのも何だけど、私の顔は可愛いという部類に入ると思う。性格だってみんな平等に接して人の悪口なんて口に出したことなんてない。ずっと心の中に吐き出してきたもの。
付き合ってからずっと考えていたことがある。正直に言おう。半田と私はつりあわない。半田の顔は決して悪いわけではないけれど、私には合わない。ずっと思っていたこと。どちらかといえば顔、性格ともに良い方の半田と、誰がどうみても可愛くて性格美人な私。そんな私たちが付き合ってるなんて知れたら。私の趣味が疑われるかもしれない。あ、でも、人を見た目で判断しない、性格をみて好きになる、見る目のある人ってことで私の評価が上がるかもしれない。いや絶対そうだ。だって今の私の評価、すごく良いから絶対みんなは悪い方に考えないよね。そうでしょう。

「いいよ、一緒に帰ろう」

そう返事をすれば、半田はまたへにゃりとうれしそうに笑うのだ。もし、断ったら半田はどんな表情をするんだろう。困ったように笑うのか、顔をぐしゃぐしゃにして泣くのか。半田の感情は私の掌の内にあるという事実が、どうしようもなく嬉しくてたまらなかった。

半田の家と私の家の方は真逆だった。けれど半田は私を家まで送っていくの一点張りで。あぁもう本当に半田って可哀相なぐらいにいい人。話題は学校の授業から、好きな音楽から。色々な話題が駆け巡る。半田はどんな小さなことでも反応してくれて、話していて気は楽だったし、楽しかった。素直に、純粋に、そう思った。

「え、あれ。なになに、二人って付き合ってたの」

一気に血の気がひいていくのを感じた。うわ。最悪。足元がよろめく。うそ。うそ。
一番嫌だったことが起きた。一番見られたくない人に見られてしまった。よりによってクラスのお調子者に。目が訴えていた。半田と付き合ってんの?マジ?みたいな、そんな。目線を投げ掛けられた。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。なんでこんなことになるのよ。これってなんか私やったから?半田と付き合ったりしたから?本当に最悪だ。何もかもきっと、半田のせいよ。
翌朝、忌ま忌ましいぐらい晴れた日に。重い足を引きずりながら学校に向かう。からかわれると分かっていながら向かった理由は行かなかったら半田はおろおろして謝ってきたりなよなよするだろうからそれが面倒だから。
教室の扉を開いたら、いつから付き合ってたんだよ、と騒がしい品のかけらもない声が飛び交う。半田が男子女子構わず囲まれていてハグは?キスは?と質問責めされていた。帰りたい。帰りたい。扉の開いた音で何人か振り返った。目を嬉々としてきらきらと光らせていたり、鈍く濁らせながらも鋭く光らせいたり。きたないな。また下品な声がぐるぐると狭い部屋に反響する。

「や、やめろよ。そういうの」

半田がおずおずと口を開く。不安そうに私を一瞬見た。気がかりそうな半田の表情を見た途端、世の中の全てが色のないつまらないものにいれかわる感覚に襲われた。あぁ、そうか、今気づいたわ。全部全部、半田なんかと付き合ったのが間違いだった。ずっとへらへらして、手を繋ぐことさえ躊躇して目が合えば顔を真っ赤にして逸らして。なんなのよ。半田なんてしらない。しらない。いらない。いらないよ。半田なんかいなかった。存在していなかった。半田と付き合ったなんて事実はない。そうよ。

「半田なんか、いらない。」

半田の目が見開き、周りもしんと静まりかえった。囃し立てていた男子も女子も、みんなの目線が透き通った鋭い氷のように冷たい。
今、なにか悪いこと言ったかなぁ。だってこうしなきゃ私、救われないじゃない。半田?しーらない。





甘毒姫の幸福論 様に提出




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