ゴリコンさん勝利後、大上さんの鼻血が止まり鼻が効くようになったお陰で匂いを辿りハナさん達の元へ走る事ができてる。
ちなみにシシドくんだが、せめてそれぐらいはと私が運ぼうとしたらみっともなく引き摺ってしまってたので結果としてはゴリコンさんが彼を背負っている。とにかく申し訳ないです。
「大上さん次の角は!?」
「あー右!右だ!」
私とは比べものにならない程大上さんの鼻は優れている。恐らくえんちょーさんの匂いを辿ってるんだろうなぁ。……で、でも水中なら私の方が鼻利くと、思う、し…
「…って何張ってんだろ私…」
「岡芽ちゃん何か言った?」
「な、なんでもないです!」
「!待って欲しいっス!…なんか、音がするッス」
え?音?
ゴリコンさんに従ってぱたりと足を止めると確かに何かゴンゴンと物音がする。
「…よ、よし行くか。誰かやられてるかもしれねぇ」「え!やややばいじゃないですか…誰が行くんですか?」「えっ?………そ、そんな目で見るなよ俺だって怖いんだぞ!」「わ、私だって怖いです!」「…自分が行くッス」私達のへたれた会話を聞いて呆れたゴリコンさんが進む。シシドくんまで背負ってるのに私…!役に立たなきゃいけないのに早速忘れてたー!
「あ、加西さん達ッスか」
「え?」
ゴリコンさんの後に続き見てみると壁にゴン、方向を変えてまた壁にゴン、とぶつかりながら微々と進むサイの加西さんだった。
「…あっサイは目が悪いんですよね。加西さん、大丈夫ですか?」
「………」
私達を見て目を見開いてからコクコク、と頷く加西さん。腕には蛇のウワバミさんが抱えられていた。
「おいウワバミ!伸びてるのか…」
「加西さん、ウワバミさんを守られたんですね。お疲れ様です」
「漢ッス!」
ウワバミさん、綺麗に気絶してるなぁと思う。
加西さんはというと、私達の言葉に照れて勢いよく首を横にふっていた。危ないですね。
「スンスン…おい、園長達はあっちだ!匂いが近くなってる」
大上さんのその言葉にハッとして皆走り出す。加西さんを見つけられてよかった!
そして走ってる中、一層大きい音が響いた。何かが崩れたのだろうか。心がざわりと騒ぐ。
「…んあ?」その音が静まると、今度は入れ替わりにシシドくんが目覚めた。
「目覚めたッスね」
「…おい、ここどこだ?魚どこいった」
「今、えんちょーさん達のところに向かってます。貴方の言う魚もそこにいます」
「…ふーん」
「多分、あの扉の向こうだ!音もでかくなってきた!」
大上さんが声を上げると、またドゴォッと大きな音が響く。
目の前に迫ってきた扉は既に開いていて、中の様子が分か…った…?
「ギャーっ!!!」
大上さんが物音に負けないくらいに大きな悲鳴をあげた。
これ…この黒い奴は…
「く、くじら?」
「なにあれでっけええええ!!あれ、あの、フジツボメット人間!?」
「クジラっスか!?」
「おいゴリラありがとう離せコラ!」
目の前の鯨…いや、あれはきっと館長さんだ。コート的に?うん。館長さん。
「皆!!どうしてここが…!?」ハナさんに大上さんが「俺は鼻血止まったから…」と答える。だけど大上さんは目の前の館長さんに釘付けだ。
「加西さんもここへ来ようとしてたんですよ」
「音のする方へと進んでたらしくて…壁にぶつかってたとこを合流したッス」
シシドくんは魚、基サカマタさんを見つけ憤慨していた。
ふと、私は館長さんから目を離してみると、目に入ったアレ、は…
「あ?雑魚がぞろぞろと…」
「え、えんちょーさ…?」
「園長…!!」
血に濡れ衣服もボロボロ、明らかに弱ってるえんちょーさんだった。地面のヒビからして攻撃されたのだろう、立ててもいない。
大上さんが衝撃過ぎて脱力したように「な…何してんだよ…」と呟く。
「おまえらのボスはもう、ダメだなこりゃ…」
その館長さんの言葉にふつふつと怒りが湧いてくることに気が付いた。な、なによその言い方…!
「何してんだ!!」
「園長おおおお!!」
「ウホァア!!!」
加西さん達が怒りに任せて館長さんへ向かって行く。
ハナさんの言葉なんか届いてなくて、私も自分の実力の事なんて忘れて走り出すとすぐに首根っこを掴まれて後ろに投げられた。
「うっ、てて…な、なんですか!」
「お前はダメ」
「!?し、シシド…くん」
私にそう言うとシシドくんも館長さんへ向かって行った。
お前はダメ、って、つまり、私は戦力外と、足手まといということだ。
「私、だって…!」
しかしそんな思い、すぐに崩れることになる。
館長さんに向かって行った皆、強いのに。それは呆気なく、子犬を払うかのように簡単に落とされた。
「み、皆さん…!」
「ハア…!おい椎名!いつまで寝てんだ!俺より強えんだろうが!!」
払い落とされ、怪我も悪化してしまったのではないかと思う。でもシシドくんはえんちょーさんを叱咤する。
「人間に逆らいやがって…シャチこいつら殺せ」
館長さんの命令。ここでは館長さんが絶対だそうだ。でも、サカマタさんがそれに従うことはなかった。
「弱者の指図は受けん!」
殺せ、との命令に振り払われた皆は躍起になって攻撃を再開しようとしていた手を思わず止める。かく言う私も手に取った瓦礫を投げつけることはなかったのだけど。
「ぐっ…貴様どういうつもりだ…ほだされたかあ!?寝返るとは…!!」
「俺はほだされたつもりも寝返ったつもりもない…俺が…あなたに従っていたのは強かったからこそ」
つまり館長さんは弱くなったってこと?
サカマタさんの言葉の真意が分からない。だって、えんちょーさんもやられてしまった今、反抗する意味なんて…
ゆらゆら、危なげに揺れる陰を視界に捉えた。
「俺はただあなたより強いものを知ってしまっただけだ」
「園長おぉ〜!!」
「えんちょーさん!」
えんちょーさんの存在が、サカマタさんを変えた。
えんちょーさん…えんちょーさん!生きてた!良かったぁあ!!
「ブッ凹ます」
「どいつもこいつも…」
しかし立ち上がったえんちょーさん、反抗したサカマタさん、えんちょーさんに歓喜する私達全て癪に触ったんだろう、館長さんは大きな声をあげてサカマタさんを振り払おうと周りの私達ごと腕を振り回してきた。
「おまえの存在が俺の全てを狂わせてるんだ…」
「は?ぎゃっ」
「死ねよ、もう」
えんちょーさんを捕らえた館長さんはあろうことかそのまま飲み込んでしまった。突然のことで皆叫びを上げる。
…けど。
館長さんはすぐに何か吐き出した。残念ながらそれはえんちょーさんではない。
「!?」
何があったのかは分からないけど、ハナさんの「園長!上!上あごを…」その指示を聞いたえんちょーさんはすぐに従ったようで、館長さんはぐらぐらと力なくよろめく。
「いくら人間だって言ってもエコーロケーションまで出来るんなら仕組みはきっとクジラのそれのはず。マッコウクジラは潜水の為に脳油っていう頭の油を固めたり液体にしたりする…あの頭突きは脳油を固めて強化してたんだきっと!」
続けてハナさんは「だからそれを使えなくすれば…弱らせられるはず!」と言った。たしかに効果は抜群らしい。先程までの威勢が全くない。
「仲間さらったり傷付けたりワシをボコボコにしたり…覚悟しろよクジラマン」
例のラビットピースの構えをしたえんちょーさんは「今度こそ凹め…!」とラビットピースを放った。
「勝負、あった…!」
戻る 進む