「カイゾウ、おまえショーは?」

「館長からのお達しじゃあ!!ショーは…最悪だったわい!!」

カイゾウ、と呼ばれたそのでかい生き物はハナさん曰くセイウチらしい。初めて見るセイウチがこんなでかいものだとは知らなかった私はその迫力にふるりと体を震わせた。

そんな次の瞬間、サカマタさんはハナさんからイガラシさんを奪い素早く水槽の中へと入ってしまった。
一瞬私を睨んだのだけど、ゴリコンさん達が近くにいたため断念したのだろう。そのままハナさんの悲痛な叫びを無視して去ってしまった。

「ガラス叩くとはマナー悪い客じゃあ…あんたらのマナーの悪さのせいで今回のショーは最悪の出来になってしもーた!!バカモン!!」

そう怒鳴ってハナさんに手を上げるセイウチ…じゃなくてカイゾウさんだけれど、危険を察知した知多さんがサッとハナさんを攫った。ナイスです!

「曲芸で鍛えたワシの技を喰らええ!のしかかり!!」

「曲芸じゃねーし!」

ツッコミが冴えてるなぁなんて思った私は馬鹿だ。たしかに曲芸じゃないけど、あのままの勢いだと確実に知多さん達は…!

しかし私の想定した最悪の場面はゴリコンさんによって阻止されることになる。ゴリコンさんがカイゾウさんの攻撃を止めたのだ。

「ゴリコンさん…!?」
「ゴリコンくん!!」「ゴリコォォン!!」

「なんじゃワレぇ…」

「知多さん飼育員さん…行くっス!」

ゴリコンさんが身を呈して庇ったことにより知多さん達はイガラシさんを見つけにホールから消える。「次イガラシさん見つけたら、絶対掴んで離さないから!!」とハナさんは力強く言った。

私も、何かしなきゃ…
そうは思えど、今助太刀したって私みたいな弱い奴、邪魔にしかならないわけで。

ふと視線を下げる。私の膝の上には力無く寝込むシシドくんがいる。
今下手に動いてシシドくんにこれ以上負傷させてしまうよりも、ここで留まってシシドくんにこれ以上負傷させないように守るのが私の役目だ。
そう言い訳して、丸まってシシドくんを抱え込むようにぎゅっと抱きしめた。

こんな弱い奴でごめんなさい。

私が目を背けている今もゴリコンさんはカイゾウさんに押し負けているのに。
何かが壊れ、崩れる音や殴られるような音は止まないし、大上さんが手助けをしてカイゾウさんを転ばせたものの運悪くそれはゴリコンさんにのしかかる形になってしまった。

「ゴリコンさん!!」

「丁度良いわ!!このままおサルさん…潰したらあ!!!」

「ウッ…!!」

ゴリコンさんが苦しそうに呻き声をあげた。
だがすぐにカイゾウさんの顔面を鷲掴み、反撃をする。

「ぐおおォ!?離さんかあー!!」

「がはっ」

一回りも二回りも大きな巨体に潰されながらも着実にダメージを与え続けていた。カイゾウさんの仮面?もどんどん壊れていく。

「ご…ゴリコンさん!がんばってー!」

「自分、不器用ですから…加減は出来ねっス!!」

とどめだと言わんばかりに両手を添え力を増したお陰で、カイゾウさんは反撃の一手を掛ける寸前に伸びてくれた。

…あ、あれ、ってことは、勝った…?

「や…やったああああ!!やりましたよゴリコンさん大上さああん!!」

嬉しさのあまり立ち上がったらシシドくんがゴツッと良い音で床へ落ちた。ごめんね。






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