失礼します、とサカマタさんがノックしてから入った部屋。ドアを開けた途端、圧力っていうか…プレッシャーみたいな…よく分からない重圧感が全身を覆った。

─────

「なるほど…兎が……それで動物園ねえ…何にせよゴミは再利用すべきだろう」

淡々とサカマタさんがこれまでの経緯を話すと、どこを見てるのかも分からないような…無色みたいな、そんな感じの目をしたまま館長さんと思われる人は言葉を発する。
ゴミって私たちなのかな。ちょっと傷付く。
隣でガタガタ震えているイガラシさんを見た。イガラシさん可愛いからな、私が守るべき。よし頑張る!

「引き続き乗っ取りを進めろ」

「はい館長…」

「死にたくなきゃ命を削れ」

頑張るも何もない。痛感した。
やっぱり、館長さんはすごく怖い。こういう発言する人にろくな人はいないんだよ。
もうどうやって逃げよう。助けを待つだけだなんて、他人任せにも程がある。
そうやってウンウン考えていると、サカマタさんが失礼しましたと言って扉の向こうへ行ってしまった。

「…さて、早速だがお前ら、名前は?」

さっきの目が、私たちへ向いた。精一杯の勇気を絞り出してイガラシさんの前へ立つ。わ、私いま頑張ってるよ…!

「…岡芽、です」

「…は。だれが固有名詞を言えと言った。何の動物か、だ」

うわああ私すっごく恥ずかしい…!
羞恥で俯く。め、めめげちゃだめだ…!だいたい、紛らわしい言い方した館長さんだって…イヤなんでもない。

「アカウミガメです…イガラシさんは、ゴマフアザラシです」

「カメとアザラシか」

そういうと館長さんは、どこからか分からないけど水…いや、潮を吹いた。館長さんの周りから小さな渦が見える。
恐らく魔力。変化しないのか?と眉をしかめられた。
私たちはえんちょーさんの魔力で変化してるから、そういうことなんだろうな。

そしたらなんと、このカメなら従業員程度にはなるか、とかなんとか言って館長さんはこちらへ歩み寄ってきた。侮辱…!

どこから出したのか紐付きの首輪をイガラシさんに無理やり取り付ける。
い、イガラシさん逃げれなくなっちゃってるよおおおお…!

そして私は見た。館長さんがまだ同じ首輪を持ってるのを。

「岡芽さん…!」

「いが、イガラシさ…っ」

「避けるな」

首輪が外れない、と言うようにイガラシさんは涙目でこちらを見る。が、助けたいけど館長さんが迫ってきてる…

「やめ、やめてください!」

「面倒なカメだな」

せめてもの足掻きで逃げ回ろうと背中を向けると、お腹へ腕が回ってきて館長さんの方へ引っ張ら…れる、というかこれ…だ、だ抱きしめ…!?
照れで顔が少し火照る。敵陣なのに…!
すると首にカチャッと何かが嵌められた。あ…

「動物ごときが俺の手を煩わせるな」

耳元で囁かれた言葉によって赤かったであろう顔は真っ青だよ。
なんだか段々、怖いとかそういうレベルじゃなくなってきたかもしれない。

「…しかしお前、何故そんなに人型に近い」

「分かり、ません…」

突き放すように離れさせられてから、私とイガラシさんを見比べる館長さん。

すると館長さんは、突き放したばかりだと言うのにまた私との距離を縮めてきた。
手が伸びてきて、思わず腕で頭を守るようにクロスさせると、下半身がふわっとなった。あれ?

「う、うひゃあ!?なに、なななにめくってんですかぁ…!」

ワンピースの裾をつまむように持って上に上げられてしまう。すぐに抑えたけど…どういうことなの…

「レディに何をなさるんで…ハッ!」

いつものジェントルマン精神で言ってしまったであろう反抗的ともとれる発言に、イガラシさんは素早く口を塞ぐ。

「……レディ?メスの違いだろ。カメが一丁前に何を照れる必要がある。アザラシごときが意見を出すな。俺に反抗するなら殺す」

嘘じゃないから、怖い。
逆らえないから、怖い。
絶対的な力があるから、怖い。
館長さんは恐怖というものより、畏怖の方があってる気もする。

そんなことを考えてる間にも館長さんは女の子のデリケートな部分をペタペタ無遠慮に触っていく。胸、お腹、お尻、脚…セクハラってこれだったんですねハナさん。ものすごく怖いですよ。半泣きですよもう。

館長さんが離れたのはそれから数分後のことで、私はすぐさまイガラシさんに抱き着きに行っていた。





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