「…俺が今日言ったこと気にしたのか?」
それもある、と頷く。でもそれだけじない。
「まぁやっと自覚したと言いますか…たしかに、やばいなって。だから、…脇差以上、を」
そう言うと薬研は私の目の前に胡座をかき、腕を組んで悩みだした。
「いちにぃ…は厚達の反応からしてまずいだろうし…藤四郎派のよしみで鳴狐もいいかもしれねぇが…うーん……鯰尾はあれでいて排他的なところもあるしな…骨喰を引き入れられれば鯰尾も大丈夫だろうが……うぅん」
めちゃくちゃ悩んでらっしゃる。
「あー…まずよ、なまえの今の魂の状態や精神力を見る限り、俺っちを顕現させたまま大太刀や槍、薙刀を降ろすのは難しいと思うんだ」
「や、薬研無しじゃ無理だよ!」
「…ん、分かってらぁ」
そんなに私の精神力は無かったか。
何故か薬研が満足そうに笑ったので思わず目を逸らした。一瞬悪寒がしたけど、気のせいか。ね。
ま、確かに入学試験の実技テストは薬研に任せるつもりだったので私自身は勉強ばっかしてたから精神力はあまりないんだろう。あと魂薄いのって関係あったのかよー
「……よし、決めた。江雪の旦那を呼ぼうぜ」
こうせつ
心の中で反復して、記憶から探す。江雪左文字。左文字派の、太刀、か。
!?
「ちょっと待って!いきなり太刀なんてそんな、」
「禊は済んでるようだし、準備はいいんじゃねぇか?」
「でもさすがに…」
「あまり後ろ向きになんなよ。どんどん魂薄くなってるぞ。それに江雪の旦那は争いを好まない性分だ。大丈夫だって」
「……う、うん…」
「ああ、だけど、くれぐれも戦ってほしい、なんて口に出すな。な?…江雪の旦那は争い事を忌み嫌ってるから、戦ってほしいなんて言ったら手を組んではくれないだろうぜ」
「えっえー!でも…それじゃなんのために呼ぶのか…」
「んーまぁきっと旦那もよ、親しい奴が死ぬのは阻止するだろうし…今のうちに親睦を深めてくべきだ」
「な、なるほど。よく考えてるんだね…」
「……もしもの時は守ってやる。そんな不安な顔すんなよ、なまえ」
また魂に表れてたのだろうか。頭をくしゃくしゃと撫でられた。
まったくこの!アニキ!イケメンめ!
お陰で少し、落ち着けた。……やろう。
薬研と私のちょうど間のところで手を突き出す。鼻から大きく息を吸った。
「……出でよ、江雪左文字」
刹那、光が瞬く。
風がぶわりと吹いて、少し後ろへ押されたかと思えば光も風も止んだ。
ゆっくり目を開ける。
「……江雪左文字と申します。…貴女は…審神者ではないのですね…なんのために私を……?」
斜めに切られた前髪に、長くて青白い髪。おしゃれなお坊さんって感じの服を着て、憂い気に目を伏せた、長身の神様だった。
「…………、」
「…答えられないのですか。よもや、戦わせようと呼び出したのですか」
「…なまえ、なまえー?」
「ハ、……あ、いや、私は、」
ちらっと視界に薬研が入って、言いつけを思い出した。な、なんて言えばいいの!私は戦ってほしいわけだし!
「私は…江雪…さんに、戦ってほしいわけじゃ、ないです」
「…では、何故?」
「え、えーと……お、お話とか!できたらなぁ…みたいな……ハ、ハハ…」
江雪さんの後ろでは薬研が頭をやれやれと首を振っている。もしかしてダメだっただろうか。
「……なるほど。和睦の道を歩いていいのですね」
「ア、は、はい、どうぞどうぞ」
「…いいでしょう。貴女の名前を聞いても?」
「…みょうじなまえ、っていいます」
「…なまえ。協力しましょう。…ですがもし私を争わせようものなら…私は貴女を…許さないでしょう…」
切れ長の瞳が強く私を射止める。
許さないって、具体的にどうされてしまうんだ。
ゾッとした悪寒が背中を走る。返事もままならなかったが、江雪さんはそんなの気にしてないように(実際してないんだろうけど)薬研と話し始めていた。
「……っはあ…」
大きく息を吐くと、思い出したかのように疲労感が襲ってきた。
「なまえ、お疲れさん」
「…ん」
「今日んところは休め、な?」
薬研の言葉にこくりと頷いて、江雪さんと薬研に向き合って「ありがとうございました」と頭を下げた。頭をあげると2人は既に消えていて、もう一度深く深呼吸した。
力尽きかけてる体に鞭を打って布団を敷き、倒れるように横になる。
多分、薬研の話から聞く審神者様相手なら、薬研も江雪さんも布団敷いてくれたり看てくれたりするんだろう。そういう風に面倒をみていたと楽しそうに話してくれたのを思い出す。はーあ。まったく、嫌になるよなぁ。
重くなった瞼に逆らわず、そのまま意識を沈めた。