「なまえ、ほーむるーむ、終わったぜ?」

声を掛けられて伏せっていた顔をあげる。
私の机の前で腕を組むのは、薬研藤四郎。短刀の付喪神だ。現代では文献にのみ記されていて実物の行方は分かっていないが、私の個性では呼び出すことができる。薬研のマークは銀色。彼はあのトラウマ事件以降に呼び出したのだが、本人が世話焼きなこともあって薙刀のようなことは起こらなかった。なのでこうして普段からもちょくちょく呼び下ろしてしまう。

「んー、帰らなきゃ…」

「おいおい、もしかして寝ぼけてんのか?鞄持ってやるから、行くぞ」

薬研が私のスクバを肩に掛けたので「私が持つよ」と言おうとすると、その前に「みょうじくん、少しいいか」飯田くんが私の横に立った。

「ど、どうしたの?」

「今日の個性体力測定のことなんだが…君の個性は"付喪神を呼び降ろす"ことと言っていたな。失礼だが、みょうじくんは薬研神しか呼び降ろせないのか?ぼ…俺にはそうは見えなかったんだが…」

や、やげんしん?後ろで薬研がブッと吹いた音が聞こえた。

どうやら飯田くんは今日の私の授業態度が気に食わなかったと見た。
個性体力測定ということで、長座体前屈やら握力やら、私自身の測定とは別に、薬研にもやってもらっていた。薬研の測定結果はその体つきに対しては良い方であったけど、私自身の結果は最下位のレベルだったのだ。

「まあ…御察しの通り、薬研だけってわけじゃない、けど…」

「ならば何故本気を出さなかった?体力測定も立派な授業!いい加減な気持ちで臨むのは学校側にも他の生徒にも失礼とは思わないか?」

「あー……うーん…ごめ、」

「悪いな、飯田の旦那。そこまでにしちゃくれねぇか?」

真面目な飯田くんの腹に据えかねたらしい、説教をされてしまって反射的に謝ると、横から薬研が私を庇うように私と飯田くんの間に入ってきた。

「だが…」

「そ、そうだよ、みょうじさんも僕みたいに負担が大きいのかもしれないし…飯田くんも帰ろうよ」

続けるように緑谷くんが飯田くんを抑め、飯田くんも「…そうだな。みょうじくん、悪かった。この先いい加減なままではヒーローにはなれないと思うと、伝えたかっただけなんだ。それじゃあ、また明日」ツラツラとそう言って、サッサと緑谷くんと帰って行った。切り替えが早い。

「なまえ、あんま気にするなよ。お前のペースで頑張っていけ」

「…ん」

薬研がスクバを肩にかけ直す。そのまま歩き出したので、私もそれに着いて行く形で歩き出した。


でもね薬研、飯田くん。私がどれだけ頑張ろうと、無理なものは無理なんだと思う。きっとこの先私がめちゃくちゃ成長してもあの薙刀や大太刀などは私の言うことを聞いてはくれないだろうし、薬研が私のことを、大将、と呼ぶことは、一生ないと思うんだ。


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