超常が日常の世界。
人々は個性といわれる、私からすると魔力と似たものを持って生まれるようで──それでも時折、無個性といわれる何も持ってない人もいるらしい──魔神族に似た脳無さんや黒い靄の黒霧さんも個性の産物だと、死柄木さんは言っていた。
私は名前を教える代わりに彼等の名前を教えてもらい、この世界のことを教えてもらう代わりに──私のことを話した。
聖騎士であること、魔力のこと、敵のワープ能力を受けたこと。
「へぇ…じゃあ違う世界から来たって言いたいんだな?」
「…そうなります」
要約して繰り返されると、現実味の無さに羞恥が走った。いや、でも、事実なんだから。おそらく。
「なぁ黒霧。おまえのワープって世界も越えられるか」
「場所が判明してないなら私にはワープさせるのは無理があるかと」
「だよなぁ」と言いながら首をぽりぽりと掻く。黒霧さんは、ワープの個性だと言っていたなそういえば。
「なまえ、おまえのその魔力ってやつは何なんだ?」
ギョロリとしたあの目が再び私を貫く。ああ、私、この目、苦手なんだ。そう直感的に理解した。
手のひらをきゅっと握る。そろそろ鎧を返してほしい。冷や汗で、少し寒いんだ。
「……言えません」
「…あ?…あー俺の個性教えろって?」
「いいえ。言えないんです」
「それはまた、なんでだ」
「…貴方方が味方である保証がありません。敵の可能性がある限り自分の手の内を曝け出すのは利口ではない。それに、私の魔力を教えることによって何らかのデメリットがある可能性も、」と言ったところで死柄木さんが「なるほど。なるほどなぁ」なんて遮りながら近づくものだから口を噤んだ。いや、黙らされた、というのが正しいだろうか。
纏う空気が変わった。
何度も感じたことのある空気だ。これは…そう、敵と対峙した時。確実な敵意を持っている時の空気だ。冷や汗が頬を伝った。
私の緊張がピークを迎えようとしていた時、目線を合わせるようにしゃがんで手を伸ばしてきたものだから覚悟するようにぎゅうと目を瞑った。
…が、何も起きず目をそろそろと開けると「じゃあ仲間になるか」と私の髪を触りながら死柄木さんは言う。驚きで声が出なかった。そんな、もっと、危ない雰囲気だったじゃないか。
そう思ったのも束の間、「まさか断ろうなんて考えてねぇよな」という言葉と共に触られていた部分の髪が崩れるように落ちた。切られたんじゃない。今のは、崩れたんだ。
「…拒否権なんて無いんじゃないですか」
そう言うと、また目を弓形にしてケタケタと笑い出した。