055


瑞々みずみずしい若葉の緑一色であった草地に、野の花が植えつけられ彩をなし健やかに根を下ろす花弁に穏やかな気持ちが胸の内を暖める。

朝露に濡れた庭の花。夜が明けた澄んだ空気を携えて面会に来たナマエをいたわるよう愛おしげに髪を梳き撫でる。

「夜ちょっと騒がしくなるけど、慌てなくて大丈夫。ベイや他の皆には内緒に」
「また面白いことをなさるおつもりですか‥っふふ」

つられナマエは微笑みを口元にたたえてバレたかと、いたずらっぽく喉を鳴らし笑う。

「複数をまとめ上げる統率者リーダーとしては‥多少とこがあるようだけど、今回試しの結果がどうなろうと──なに。彼らの悪いようにはしないさ、今もよく働いてくれてる‥‥出来る限り獣人君たちの望みは叶える」

自分よりも小さく細いその体で民のため奔走している──この御方に託して間違いなかった。
力が衰え、微かに震える掌を曇りなく微笑むナマエの頬の添えて親指の腹で目元をなぞり、言葉に出さず感謝を伝える。
安心と、心の底から満たされる面持ちであろうエルキーと顔を見合わせナマエは──時折しずかに奥歯を噛み締め、腹奥で渦巻き堰を切る叫びを堪える。色褪せた毛色が覆う、ひどく痩せ細り骨が浮く 幾つも胼胝たこ跡がありヤスリのように乾いた肉球がある獅子の大きな掌を両手で包みこむ。

なにか足りないものは。日増しに体力が落ち、寝台で過ごす時間が多くなったエルキーにやさしくナマエが問いかけ──エルキー自身から望みは、口にすることはなかった。残された時間を思えば これ以上望むことがあるだろうか──


集団のなかから選び出された代表者というものは。常に最悪の事態を想定し動く

拠点内にさえ居ればナマエやその子らが誰かしら"保護"してもらえると──。ひとときの平穏で夜の恐怖を忘れつつあった獣人ビーストマンたちの、甘やかな幻想を打ち砕かれた瞬間、再び命の危険に晒されてはじめて本性が表れる──

アンデッドを造り出すのは単純作業でほとんど訳なかった。地下にあるアイテム倉庫から平々凡々な鎧を一つ取り出し、複製して関節可動域に分裂した小マシュロを貼り付かせおけば。即席自動人形オートマトンの出来上がり。あとは不死種を装うのに禍々まがまがしい黒い霊気に見えるエフェクトを鎧全体にかけ、日が落ちて拠点の周りを包囲するよう配置しておく

元より一切の外敵を払い除ける魔法防護壁に不備など無く。普段そこかしこに転がっている小マシュロがいないことで獣人ビーストマンの誰かが感付くかも?などと悠々と姿を<不可視化>にしてベイたちの動向全て見ていたナマエは──。ただただ感心するばかりであった

「なんだ。やればできるじゃないか」

拠点丸ごと呑み込む程の物恐ろしい脅威が、たったのひと拍手で消失し こんな、傍迷惑な騒動を起こした首謀が涼しげな様子で姿を現す。

勤勉で仕事に熱心な(容赦無い)娘が教官だけあって、敵の数が把握し切れずとも応戦できるよう陣形を組み、隣りに立つ同胞に命を預ける決断。何の、誰のために闘うのかベイ率いる獣人ビーストマン全員に覚悟を刻み付ける──悪くない手応えだと、種明かしにナマエは見かけ倒しの黒いオーラ纏う鎧をブリキ人形よろしく片手で持ち上げ黒霧かかるエフェクトを外し、間接部分をぎこちなく動かすマシュロを解除してを草の地面に放る。

一撃喰らわして呆気なく崩れ落ちた甲冑が、ひとりでに淡く光ったあと空気に溶けるよう細かい光子になって消散。いきなり現れたナマエの足元に散らばるカラの甲冑を目の当たり──信じられない、と言った表情でベイは思考のうずがうねりを上げ、急速に一本線につながるのを背筋を走るの寒気と同時に感じる

そして。さも予見していたと言わんばかり、悠々と糞落ち着く払う目の前の女に憤りを覚えギリギリと尖る牙を歯噛み

「お、〜〜前ッ‥の仕業か!!」
「ご明察。まずまず合格ライン と言ったところか初めての指揮でよく動けたな、出撃前の演説もよかったぞ」
「このッツ───!!」

おちょくる口調のナマエとの距離を一気に詰め、胸倉を掴み上げ牙を剥き出し吠える

「お前‥!!ッお前のそういう見透かした態度が嫌いなんだ!!試すようなふざけた真似しやがって〜〜ッ肝心なことは言わねえ!俺達をどうする気だってッええ!?テメエの都合いい兵士にでも仕立て上げようとしてたのか!!」
「私が教えたかったのは自衛のための戦い方だ!!家族を失わないため、力の使い方を誤るなァ!!」

恫喝上げる頭目を超えるナマエの雄叫びが空気を震わし、周りいた全獣人ビーストマンの体じゅうに電流が迸り出す。

また、繰り返すのかと───
延々と紛争続ける故郷をかなぐり捨てまでも自由を求めた。──そんなものは夢まぼろしだと現実がいたみとともに襲いかかる、あてもなく逃げて逃げて足が擦り切れてまで逃げても結局争いはどこにでも付きまとってきた。

さげずまれ、利用するだけ利用され最期はごみのように打ち捨てられる

そう、思っていた

心臓が激しく奮い立つ。胸倉を掴んでいたベイの手がするりと怒気が抜け落ち、揺るぎない決意を瞳に映すナマエを瞠目して見詰めあう。

「君たちは夜の地獄を生き永らえてきた 一度へし折られた自信というのはそうそう簡単に立ち直れるもんじゃない」

このナマエではなかった

「ずっと恐れていたアンデッドに勝ったんだ──もっと胸張れよ」

止め処なくあふれ出す涙にうずくまり、ナマエを選んで間違いなかったと──心の底から熱情と忠誠を誓った。


夜明けを信じて




もどる
×
「#切ない」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -