052


ユグドラシル産で環境と人に優しい自然由来の洗剤。赤ん坊のデリケートな肌にも安心して使える固形石鹸を傭兵時代からこつこつウチの倉庫に保管(ド忘れ)していたのが役に立った!無添加最高

家政婦メイド魂に火が付いたカーリィナを皮切りに。船着き場に停めてある全部のゴンドラを道行く住民にも協力してもらい、空気よどんでいた感じが清掃終わり、春爛漫へと様変わりしたその光景に わっと大歓声と拍手の嵐が起こり、自分も惜しみない称賛を送る。
伝統的な郷土色がいろどり豊かに趣向凝らした装飾絵が一つ一つのゴンドラごと良く映えてる。

ついいつものクセで路上販売商いやってしまった──!目立つ行動しちゃいけないのに、儲かるセンサーが反応するとどうしても体が勝手に動く。
なんでも挑戦しようと試みる娘の心意気を重んじ、OKのサイン出すやいなや。
今でもダンスをし出す、弾むような好奇心に満ちた足取りで つないだ手を離れ、駆けるカーリィナにつられて商売品を分け与えるのに夢中になった──

いい感じに潤った財布を宙に放り、小銭がたくさん擦れ合いじゃらじゃら鳴る小袋を掌でキャッチするよう、消える手品マジックに見せかけアイテムボックスにしまう。

気が晴れるまで思う存分清掃仕上げ。悲惨であった水路がすっかり心地良く、せせらぐ河の水面に陽射しがまばゆく反射して綺麗に磨き上げられた小舟が光沢を放つ──
肩の力が抜ける充足した気持ちに、固く真一文字に整った薄い桜色の唇がほのかに優しい笑いをつくる
はっとして直ぐ姿勢伸ばし。辺りを見渡して丁度 真後ろに佇んでいた主人が──幼女の姿相応にありったけの輝く笑顔で見上げて来て 気恥しさが沸々ふつふつと湧き、目線を逸らすも小さな手が確りとつなぎ直し──離れたくない一心で握り返す。

偶然通りがかった橋で。何事か、大勢がたむろして河下を見下ろす。歩を緩め、立ち止まると激しい大波のよう凄い勢いで親子が実演販売してるその場の何とも言えないノリというか。成り行きで船着き場の修繕に何とは無しに参入した住民の何人かが、ピーン!と 点と点が一本の線でつながるよう記憶が甦る───
何日か前。街外れにあるさびれた露天商通りに彗星の如く出現。一度食べたら忘れられない!今思い出しても腹がぐうぐう鳴りっぱなしで口の中がヨダレの滝で溢れる。あの香ばしい揚げたてパンの香りに食欲をかき立てる幾つものスパイス効いた程良い辛さが野菜本来の甘みと絶妙にマッチした"るぅ"なる具が入った、奇跡の「かれえパン」を屋台で売っていた看板娘ではないか──ッツ!!

めっちゃ美味いカレーパンをまた食べたくて大絶叫が響き渡るなか、面倒な騒ぎになる前に。とっくに運河を離れ去っていたナマエとカーリィナは、街のド真ん中で白昼堂々。無断で営業した自分たちを摘発にやってくる──。と、思われる警備兵をさらりと躱してやり過ごす。
人並み外れた聴覚でカレーパンを絶賛する叫びを耳にし。カーリィナと水精霊ウンディーネたちが丹精込めて作ってくれたパンが好評得られ、頬が緩む。

無性にカレーパンが食べたくなり。嬉しそう照れてるカーリィナにサムズアップして念話でお願いすると。──近い内作ってくれる前向きな返答もらえるぃやっほぉう!

しばらく雑踏をすり抜けていくと日用品雑貨や、食料品を売り出す出店が通り端に見えてくる市場に差しかかり──今度はナマエが手をつないだまま急に歩みを止めた

一拍置いて きちんと足を揃え、立ち止まりカーリィナは何かに意識を向けている主人に気付き、その視線を追い──前方から少し左に逸れ 線の細い体をはみ出して大きな風呂敷包みを背負い、よろめく老婆が息を切らし近付いてくる。

重荷の所為で細い老体を更に身を縮め、前のめりになり頼りなく歩く老婆とすれ違う人だかりが肩や腕に当たるも構わず素通りして行く。

──先の、荒れ果てた停泊場を目にした時とは異なる。静かに。しかし苛烈に胸の内を青い炎がゆらめき燃え上がるのを感じる。

「おばあさん、大丈夫?」

喧騒に囲まれ苛立たしい、怒りで視界が遮られるところ老婆を心配して声かけるナマエの声が水を打ったよう、鼓膜にハッキリ届く。ざわつく胸中を鎮めカーリィナは意識を取り戻す。

すれ違いざま通行人と強くぶつかり、足がもつれ倒れかけた老婆は──ぐんっと何か力強い支えに背負う荷物が軽くなり地べたへ転ばずに済んだ。目を白黒させ、ついで足元から身を案じる幼い声に驚く。
身長が少し足りない分、爪先立ちして突っ張り棒のよう伸ばした片腕で荷物を支えるエリーを見つけ。慌てて荷を背負い直そうと肩に力を入れる前にカーリィナが軽々と重い荷物を受け取る。

「家まで運びましょう」
「まぁ、そんな‥っ!お嬢さん方に助けてもらうなんて」

遠慮がちに首を振る老婆の体を支え、細腕と自分のを絡ませるナマエは──人助けを自ら買って出たカーリィナの予期せぬ行動に驚きを隠せず

(優しい!いい子!!)

などと娘の成長を目の当たり涙腺崩壊して感激に浸るナマエを他所に。どうしてこの様な行動を取ったのかカーリィナ自身、解らなかった──

ナマエ以外全て虚ろな影に等しく
取るに足らない人間を助けるなど創造物である己が意に反する行為の筈。

最初にひ弱な老婆に気付いたのはナマエ
何も言わず、その瞬間とき老婆に手を貸した主人の奥底で──自分と同じくくすぶる焔が灯しているのを確かに感じ取る。

主人がやろうとする行いに身を奉じるは従者の務め──
迷惑はかけられないと何度も断りを入れる老婆を制し。明るく笑みを浮かべる裏表が無い、はつらつとした内面が容姿に表れるエリーの真摯な態度に警戒の色を薄めた老婆はついに折れ。すまなそう手助けを受け入れる。
歩調が緩やかな老婆の肩をナマエは寄り添い支え、家までの道中 大きな風呂敷包みを胸に抱えるカーリィナは前を行く二人の後をついていく。


せっかく舗装されている石畳の道も長い間 補修が加えられず放置して雑草が不揃いに生い茂り、剥がれた跡の亀裂や欠損がそこらじゅうに目立つ──表通りを外れ、ほんの少しの段差でもつまずきそうな足腰に力が入らぬ老婆を途中、背にのせるのに切り替え、薄暗い裏路地を進む。

小さい体なのに体の軸がぶれない、しっかりした安定感をエリーの背中越しで直に感じ老婆は大層感心して驚き。母親であろうカーリィナに子供を褒めた途端。
固い表情がうっすら目を細め、胸を張り 機嫌を良くしたように見受ける。ひょっとしたらこのお母さんは恥ずかしがり屋さんなのかもしれない。

道案内で無事 老婆の自宅まで到着したエリーとカーリィナは屋内まで上がらせてもらい、居間にある安楽椅子の上へ背負っていた老婆をゆっくり下ろし落ち着かせる。

「ありがとうねぇ」
「いや。これぐらい構いませんよ」
「荷物はどこへ置きましょうか‥?」
「ああ、それはね‥‥」

老婆一人の力では、家まで運ぶのは厳しいものであった包みを解くと──青々とした新緑が一面拡がり大きく見開く。濃い土の匂い、幾つもつぼみが付く花の苗が風呂敷の中、丁寧に並べられている。

「庭に埋め直そう思ったんだけど、足が言うことを聞かなくなっちゃって‥‥家の中で育てみるわ」

窓の向こうをもの憂げ眺め──以前は狭いながらも沢山の花が咲き誇る、美しい庭園であったのだろう。
今は枯れ葉覆う色褪せた庭を見つめる老婆の両手を、慎重に折らないよう包みこみ、握りしめる。

「ご自宅の庭を定期的に世話をする者が訪れれば──素敵なガーデニングがまた観れるようになりますね」
「いいえ‥!もう、これ以上面倒を掛けたら亡くなった主人に申し訳が立たないわ、」
「ではこういうのはどうでしょう、おばあさん‥?私たち家族 この街に引っ越してきたばかりで‥庭のお手入れをする代わりに話し相手になってくれませんか」
「まぁ‥‥‥!」
「私からも宜しくお願いします」

礼儀正しくとても丁寧な姿勢で接する母娘に人らしく自身を受け入れてもらえたのは。いつぶりだろう──感謝を告げるより先に涙ぐんで、目線を同じにして微笑みかける幼児の頬に震える両手を添える。


一人住まいをしている老婆の承諾を得て 二人で協力した方が早い、カーリィナと手分けして枯れた草花を片付けて。
安楽椅子に身体を預けるおばあさんが指示してくれる通りに、花壇の土に新しい苗を埋め直す間、カーリィナがキッチンをお借りして昼食の用意をお願いする。

今朝バイキングに出た朝食メニューを、各種サンドイッチにしたランチをおばあさんと一緒にいただく──

「ご家族に冒険者はいらっしゃる?」
「うん?いますよ」

(目の前に。)今日はカーリィナとのデートで完全オフ!と決め込んでたので、冒険者の証である小さなカッパーのプレートが付いた首飾りはかけていない。
生まれて初めてこんな美味しいサンドイッチを食べると大喜びして頬張る老婆は続け

「なら丁度良かったわっ!家の整理をずっと前に組合に依頼していたんだけど‥人手がなかなか来なくてねぇ、どうしようか悩んでいたの。貴女たちが庭を綺麗にしてくれて助かったわ!本当にありがとう、少ない額だけど組合で報酬が受け取れるから、ご家族にお伝えして」
「そう ですか、わかりました。」

食後のティータイムを終え、最初の陰りある雰囲気がすっかり澄みきった表情に変わり次回家を訪問する約束を交わし、大きく手振りで見送る老婆と別れ。
表通りに戻る途中──我が子と楽しいデートのひと時をぶち壊したくないと溜め息をくのを耐え忍ぶ。

リ・ロベルに限りそうなのか判断し兼ねるが。この世界で冒険者というのは、言うなれば『便利屋』に近い。
対モンスター用の傭兵としての仕事が主であり モンスターはその種ごと様々な特殊能力を持つ。だからこそ一般兵などよりは多種多様な技、対抗手段を持つモンスター専門の退治屋を必要として冒険者組合が成り立っている──
国家レベルで冒険者を囲わない理由として考えられるのは──賃金コストがかかる正社員を数多く抱えるより、その各地で派遣社員を雇い入れた方が安くつくという企業側が考えることを同じもの。
統治する側として自分たちがコントロールできない武装集団が存在しては嫌なのだ、そのため金銭的な面でも立場的に低い。
ゲームのような魅力を感じなかったのは 夢のない現実世界リアルを思い出させる、弱者を踏みにじるヤツはどの世界にでもいる

「失礼、少々よろしいでしょうか?」

市場へ向かう途中で小奇麗な執事風の男に前を塞がれ、更に周りを私兵と背後には──山猫だろうか?人街では珍しい獣人ビーストマンが張り付くよう後ろに立つ。

「当家の主人が是非。お二人を屋敷へ招待したいと申しておりまして、どうぞ馬車へ御乗り下さい」

前方に視線を凝らし、停まる箱型馬車の小さな窓 カーテンで遮られている隙間から覗く──まとわりつく目つきの瞳が自分たちを嘗め回す。
脳裏にリュヤドが警告する言の内容を思い出し。

我慢の限界を超え、堪えていた堪忍袋の緒が切れる。


不気味なほど静かな前触れ




もどる
×
「#甘々」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -