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相当な先々を見越すナマエであっても。まさか実の娘が出陣する装いで現れて 街に繰り出そうとしているとは、流石に予測出来なかった。

ナマエ自ら誂えた 女性用のワンピースを中心とした種類や数こそ少ないものの、カーリィナが袖を通すに調和が合う 身体に違和感なくフィットする採寸仕立て、落ち着き払う大人な雰囲気を醸し出す娘の全貌イメージを飾れるよう小物も統一してデザインした服飾がカーリィナの自室クローゼットに間違いなく収納してある。

部下の水精霊ウンディーネメイドたちからも、主人と出掛けられる最高の機会に恵まれご満悦な様子が見受けられた──

冷静さ保つカーリィナの内で。
誰にも、きょうだいらにも、大切なナマエに対してで在ろうと。胸奥に秘匿する思いが渦巻いている

敬愛する主人と外出する事に応じた、先達せんだって古城にて潜入している魚人マーマンが持ち帰ってきた報告を受け。
当主が「無能なサル」と大分だいぶかたよった内容の所為で"リ・ロベル=無法地帯"という誤った先入観が生まれてしまい。
加えて外部での活動経験が乏しく、拠点一帯に警戒網を張り巡らす索敵支援系魔法道具マジックアイテムと精神を繋げている神懸り的なスナイパー特殊技術スキルの高さも、有効範囲圏内を一歩でも出てしまったら脳力を十二分に発揮出来ない。

例えるならば──五感で捉える知覚を超えて、第六感にまで達するカーリィナの並外れた感覚機能がそぎ落とされる。
今まで普通に把握出来ていた遠くの景色が視界狭まり、極端に

明かりが一切灯らない闇に身を投げ出すのと同義ある──感情を確立したカーリィナが未曾有の恐怖をその細い体に受け 慟哭も挫折もせず、自我が崩壊しなかったのは

愛する人と離れ離れになりたくない、と──強く願い己を奮い立たせナマエとの思い出が一歩踏み出す勇気を、背中を押した

外を出ることは。カーリィナにとって暗闇をさ迷い歩く事であり、精神的にも心理的負荷は計り知れない。
女の子らしい洋服を手にとって身なりを飾る、そんなありふれた考えも浮かばずに。居もしない架空の敵を作り上げ、迷彩服で完全武装してしまった謂わば疑心暗鬼の表れで奇行に出た。


ナマエは 最初こそ娘のワケわからんアクティブな軍人ファッションセンスに驚いたものの(これはこれで悪くないアリかも?)
過去ソロプレイやってイベントゲームで荒稼ぎしてた戦闘バカな一面を持つ。
獲物を狩る側から考えて、迷彩服がいかに狩猟ハンティングに適しているか脳筋思考で何パターンか模擬戦闘シュミレーションしてる最中

なんとなく 娘の手を離してはいけない
──野生じみた勘が働き。リ・ロベル都市内へ直接<転移魔法>テレポーテーションせず。都市中心部よりかなり離れたアレクサンドルと懇意にしている露天商が並ぶ街道沿い。ひと気少ない緑生い茂る森へと手をつないだまま転移した。

ウチの家族構成知らない第三者から観たらカーリィナの方が保護者に思われる確定!涙ぐみそうになるのをひそかに唇噛み締めてナマエは1人ノリツッコミして気を落ち着かせ。街道へ向かうに、歩調を合わせようとするも脚の長さでいったら断然大人のカーリィナがコンパスあるじゃん──ッ!

逆に歩く速度を合わせてもらっている、(ごめんねエスコートも満足にできない親で‥‥っ!)と謝罪込め手をしっかり握り。ちょっと体温が冷たい掌が握り返してくる、ああやっぱり

はじめてカーリィナと手を重ね合わせた日を想起し愛おしさが切実になる。

気もそぞろ アイテムボックスに護身用の魔導銃を備えてあるも不安の影が付いて回る。屋敷を離れてしまった──念願叶った主人と逢引き ときめくのとは裏腹に自身を囲う色んなモノが目新しく過ぎて瞳が泳いで咄嗟に瞼を閉じかけようとし

注ぐ日光が木々の間を照らして
木漏れ日に笑顔を満開するナマエに手を繋がれ──脚の感覚を取り戻し、霧が晴れるよう眺めがよくなる

「晴れてよかったぁー」

いつもガンバってくれている娘の休日が雨だったら気分がノらないって心配してたんだけど、快晴でラッキーっ!

木々を抜け以前モヴウ村長とカレーパン販売した時よりも活気づいている露天商通りの店の終わりどころで立ち止まり。人々が行き交う街道沿い、隅の方 人の流れを腰を下ろして眺められる狭いスペースに置かれた丸太の椅子に腰を下ろす

「どっちがいい?」

差し伸べる両掌からふいに取り出された林檎とオレンジを前に。茫然と、主人のお考えになられている意図が分からずカーリィナは小首かしげる。

自分で決定を下す、選択肢を尋ねられたことが無かった。一玉ずつ掌に乗る果実を焦りで目をきょろきょろさして動揺現し。

決めるのに長く間を要するカーリィナの真隣りで、ナマエは変化なくのんびりと柔らかい笑みを浮かべてひとときを楽しんでいる。

「あの‥‥」「え‥、っと‥」口ごもりつつ弱弱しく右にあるオレンジの方を選び 何の正解か、意味があるかも分からぬまま それを手渡され収穫したての皮に張りがあり、表面は滑らかで持った時にずっしり重みを感じる──笑いはじける主人が腰元ポケットから木材をカンナ削りでもしたのだろうか、極薄紙の透ける薄さに削った木の皮を細長く巻き上げてストロー代わりに作成したペンシル棒を直接オレンジに指す

自身も持っている林檎に木のストローを指して。咥えて吸い上げるのを実演しながら果汁飲む──真似をしろと‥‥?

まじまじオレンジを見詰めて覚束ない怖々した動きでストローに口をつける。

舌につめたさを感じ、驚くもすぐにさっぱりとした柑橘の果肉と細かな氷の粒がシャリシャリと甘く口の中で溶けて張り詰めていた神経が解されていくような。味わったことのない果汁がサクサクと噛んで楽しめる、程よい氷りづけの飲み物へと趣向凝らしたオレンジを、瞳を輝かせ 外に出た事の緊張で乾いていた喉を潤すカーリィナを間近にナマエは悶絶する

隠密に徹していなかったらこの場で超叫びたい衝動を必死に我慢、街道行き交う人たち全人類に向けて自慢したい!

ウチの娘が
こんなにも可愛いがすぎる!!


この異世界にカメラはあるかーッ!!




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