032


胸の高鳴りが止まない。嬉しかった、両親以外の誰にも「おいしいよ」と言ってくれなかった──時間と手間をかけて作った自分の料理菓子を、あのひとは笑って、真っ直ぐに見つめて、褒めてくれた素敵なひと

はやくあの方ともう一度会いたい。
ミーシャはぎこちなくもあるが根は優しそうと、いう印象を持ったアークから。自室に居た方がいいと言われ篭り、受け取った一輪のコスモスをすぐに水貯めたコップに活ける。林檎はそのままに家へと待つ両親の元へ、瑞々しく光沢放つ林檎を一緒に食べ合いたかった。

はっと失念──見送りをしていない、
どうしてしまったのか仕事を放り出して主人に叱れる怖れよりも、エリクシールの姿を目に焼き付けておきたい激しい衝動の方が押して窓辺に駆け寄る

行かないで

窓越しで聞こえる筈もなく、声に出してもいない。しかし。古城の門をくぐり私有地後にする巨漢の影と片割れのもう一人華奢な女性──見つけたあの方、歩く速度をわずかに緩め、外から──外壁の窓が無数にある中で高層階を見上げミーシャを捉える

鼓動が最高潮に跳ね上がり熱が全身を伝う。視点が迷うことなく自分を見つめていた、窓枠から弾かれるよう身を隠してしまい、好奇心が勝りそろりと顔をのぞかせる

微笑を浮かべ。片目の瞼を瞑りウィンク かるく手振りを送る──茶目っ気な仕草を間違いなく自分に向かって

それが最後に見送ったナマエの姿であった。日が暮れたのち その日の重労働が終わってから疲れなど気にもせずミーシャは華やぐ笑顔で自宅へ早足で帰る。コスモスと林檎を携えて

切り分けた林檎を両親と食卓囲み、感動が再び。果汁が蜜溢れこんなにも美味しい果物がこの世にあったなんて!

コップに活けているコスモスを手に取りながら、水仕事でいつも荒れてあかぎれにまみれ うまく握れない両方の手がなぜか調子良くなって痛まない嬉しいことだらけ。素敵なお誘いを受けた、日中起きた楽しかった出来事を同じ笑顔で耳を傾けてくれる父と母に語った。
あのひとの住まう国とはどんな美しい国なんだろうか


時間を少し遡る──

リ・ロベルから街道沿いに遥か遠く離れた大勢の人と物資が行き交うさびれた露天商広場。しなびてる作物、ボロの衣料品、贋物の装飾品と並んで客足が悪い。商人たちの表情も影差し憂鬱な空気が占めている。

突如 商人のひとりが驚きに蛙がつぶされるのと聞き間違うかの悲鳴を上げる。

「げえっ!?」
「ッまた来た──!!?」

昨日鬼気迫る商売魂を見せ客のほとんどを持ってかれた巨漢の男!だいぶ存在感が薄くなってる?がソイツに違い無い!恨みはさほど持っておらず。どえらく美味かった出来立てかれぇパンとか言った食料と果実汁の飲み水をタダでくれた、

「冒険者だったのか?」
「っ連れの爺さんと娘っ子は!?」
「あー‥‥‥今日ハ、居ネエ‥」

片言カタコト??巨漢のあんちゃん一人。ということは今日はあの台風災害みたく鬼商売はしないんだなと考えに至る露店商人ほぼ全員が、ほ〜ぉっと安堵の息吐く。
巨漢の男は一人ではとてもじゃないが運べない、持って抱えても押しつぶれるくらいの大風呂敷 荷物を軽々片手で背負ってやって来た。おもむろに地面に下ろし 中身をひろげる

「委託販売‥‥‥ッテ、出来 ルカ?」

だから何で片言カタコト??広場の商人たちがぞろぞろ集まり広げられた大風呂敷に大量にあるそれら、ひとつ指でつつく

「ぅお!?み ッ水か‥‥これ?」
「昨日ノ果実水‥‥ガ。コレ」

巨漢の男が手のひらサイズの──水玉の塊がひとつひとつ山積みになっている一個を手に持って。ぷるぷるとしてる質感で透けている、持ってるだけではこぼれたり、濡れはしない。それを口に近付かせ吸い込んで実際に実演して飲んで見せる。一斉に歓声のどよめきが起こる

「のっ飲んでもいいか!」

頷く巨漢の男の了解をもらって、商人たちはおそるおそるスライムに似た水玉を手に取って。先刻と同じよう吸って飲んでみる、甘い林檎の果汁が喉を潤しカッと目覚めるショックが襲う

「す──ッごい技術だこれは!!?」
コップも必要ないし!」
「コレを委託するって言ったか!?」

また無言で頷く巨漢の男、今一反応が固い。露店商人たちに光明が差す!新しい商戦に乗り出せる 家族を養える

「アンタ名前は!」
「っあ、アーク──」
「アークさん!これ作ったのは貴方ですか!とんでもないアイディアだ!!」
「企業秘密」

はっ?

「企業秘密」をまるで呪文の詠唱みたく永遠と繰り返す、アークの目反らしする怪しさ全開態度だが商人たちはそんなものお構いなしに、互いが互いの稼ぎ状況 家で腹を空かしている身内苦労は骨身にまで知れている。水玉の塊を統一し均一数で自分たちの店に出すことを協力快諾

「原価はどのくらい!売る値段は私らで決めていい!?」
「次はいつ入荷してくれる!!」
「他に良い商品あったら俺達の店に卸してくれッ!!」

アークもといアレクサンドルは
(なるようになれ)己を取り巻く熱気に圧倒 頭痛が止まず、大将に通じる──勢い止まらない興奮商談。ただただ頷くことしか出来ない


古城を後にし。直後又 別行動で大風呂敷を託された

「ロベスは傀儡だ 何の脅威ですら無い」

飼い殺している、と大将が断言した──
ナマエがそう云うのなら違わ無い。今までミスをした事、損しているところを見たことが無かった

喩え己の理解が遅れても
大将の云うモノの本質。核心突いている

「"臭気"を嗅ぎ分けろ。豚は臭かったろベイたちが強制労働されていた元エストルグ村にも在った──毒薬のにおいだ、当主と妙齢のメイド。此処の高級住宅エリアにも充満している気付いたか?」

以心伝心で同意の頷きを察し。ナマエは 慈悲を下すのを拒否する、薬物中毒で思考もままならぬ色狂いロベスを目にした瞬間頸を落としてやろうか?殺意を圧し殺し──そんな価値も無い塵、直ぐに商談持ち掛けた。

"リ・ロベル"この都市名ブランドを保つのに「組織」もロベスには手を出さない真実見抜いた

リ・エスティーゼ王国は各地都市名を。それぞれ領地の当主・ラストネームから因まれている

領主である大貴族名から都市が成り立ち
例えば。エ・レエブ"ル"の都市名なら
六大貴族の一人 エリアス・ブランド・デイル・レエブ"ン"候といったように。

(間抜け)としか印象持たぬロベスを薬漬け、操り人形化。放し飼いに。油断しきっている裏組織にナマエは負ける要素一片も無い 暗躍組織を陰から葬る策をユグドラシルゲーム時から培ってきた。暗殺手練れのプレイヤーキラー対抗する完膚無きまでの完全死合いパーフェクト・デスゲーム。生き残り勝つ手段大昔から講じてある──親指1つ、下に向けるだけ、死を贈ろう

「この風呂敷の品を、お前が信頼に値する商人に売りつけろ何人いてもいい。冒険者と商売人としても名を広めるぞ」

以前なら主からの命を受けるだけだった
以心伝心。ナマエの殺意察していたアレクサンドルは──獰猛な獣の性を上手く隠し通せるか、暴れられる愉しくてしょうがない。人間の男に化け。勲を立ててやろう魅せてやる

「良い子だ心して懸かれ。速度だ、速度が全てだ──塵共の寝首を掻く」

ナイフを後ろ背後から滑らせるだけ
ごとりと暗躍せし首魁の頸が落散る


影の底から侵略者が推して参る


再度 時間が僅か進み──

おおきな。それはそれは大きな木箱が、貧民街道・ど真ん中に。一ブロックごと等間隔で置かれていた

木箱の蓋は錠の鍵は掛かっておらず。いつそれらが現れたのか目撃者も居ず。

箱には文章一つ 〜種族問わぬ医療団〜

ただよう鼻から嗅ぐ、胃を刺激する食欲に従い。木箱の蓋を取り覗いた最初の勇気ある者・孤児の浮浪者だった、ぎっしり詰め込まれているボトル瓶の水とパン 子どもたちは一心不乱に腹を空かせている同年齢の仲間の元へ大量に抱えて運んだ。街の警備兵が押し寄せて来る前に、木箱は空っぽになったのと同時に光りとともに消え失せた。


同時刻──

貧民街により近い。リ・ロベル内を出入りする城壁大門から人と物資が運搬されて貴族馬車も、他冒険者チームである武装している者たちも数多ひしめき合う。主要街道──

隅の方に追い遣れているのか疑う。角ブロックに道具屋のひとつが営業開店しているが、立地悪く、日照陽射しが入り込まないこともあり見逃して素通りしてしまう。そんな客足伸びない店に

たのもー!店主はいずこにー!?」

少女の姿をした大魔神エリクシールが戦いに乗り出す


まずは先立つものがないとね!




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