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不思議だ。ゲームだったら最初に訪れる街に興奮冷めやらぬのにこの都市ときたら他愛ない。先ず魅力が見出せん。

偽名を守るよう念押ししてからアレクサンドルと別行動。情報収集に街を散策してみて同業者の冒険者出で立ちしてる者たちが集まる道具屋に顔を覗かせて秒で興味失せた。

粗末な品物。魔力の欠片も感じない武器と言えるかただの棒切れにしか見えない 画用紙程度の紙切れ装甲のような防具。店主と冒険者が値段交渉に白熱論争のブツが水薬ポーション?アレが?なんで青いんだ青色は食欲なくすんだぞそれ飲んで体力HP回復するのマジかマジなのか

ユグドラシルと比べたら天と地の差──
技術力がこんなにギャップあるなんて、自分で造ったほうが安心安全。丘小人ヒルドワーフドックたちのお給料(という名の銘酒とどか盛りご飯)倍にしよ。空に向かってナマエは感謝の念を合掌して拝み倒す。

一応もしもの事態を想定して。アイテムボックスにユグドラシル産の本来赤い色の水薬ポーションしまってるけど人目に出さないでおこう、低級下位アイテムの換金も駄目だ 直ぐ足が付く。以前ゲーム時代ならドックたちが製作した丘小人ヒルドワーフ鍛冶技術力の粋を結集した武器防具やら売りさばいてたけど無理無理無理!

(息子よ!お前だけが頼りだ!!)

英雄とか豪話したけど最初はちいさな一歩からでいいんだ!お母さんが見守っているからな!無理はダメ!絶対!

<商人あきんど>の職業クラスを選択しているナマエだが 商売とは場所を、店を開いてそこからはじめて売買が成り立つ。
身を潜めて隠密徹しなければならない。昨日モヴウ村長と同行(ぐいぐい連行)しての食料販売手段はもう使えない。次の作戦──ビジネスチャンスをナマエは段階的に九つ構想企てている。

チャンスを逃すと一生帰ってこない。

見極めるには知識こそ情報こそ宝

ステップその一。
一番偉い人物との面会

ナマエの掛けている息子アレクサンドルに授けた専用魔法道具マジックアイテム眼鏡と対と成る片眼鏡モノクルは。
一つの<念話テレパス>封じ込めた上級水晶を二つに割って加工した。
眼鏡を掛けている状態でなければアレクサンドルは、片眼鏡モノクルを持つナマエに対してのみしか<念話テレパス>を使えない。

つまり息子に起こっている状況が全部筒抜け。ナマエには無用の長物だ既に異世界の文字読み書きもマスターした最初のステップをつつがなく事が運べば息子の自由にさせようと算段付いていた。

云われた通り。斡旋所からアレクサンドルは召喚状を受け取り、調べモノして散策してたナマエと無事合流。
リ・ロベル都市の名の下に領地領海を統治するこの街の当主──ファラヴィア・ゲーツ・ペンウッド・ロベス卿との面会権を得た。

「どうすんでェ?今から正面突破って」
「歩きながら話そうかー」

片眼鏡モノクルを外して。拠点から出立する際にカーリィナに用意してもらったお弁当カツサンドが入ってるランチボックスを掲げて。お昼ご飯としゃれこもうぞー

海産業都市の名を冠しているリ・ロベルはモンスターの侵攻を抑えるのに街全体を城壁に囲まれている。各所城壁水門から生活のかなめとなる水を街に取り入れ、水の都として。
北西に一際そびえ建つ古城へと奥へ中心部に進んでいくと、貧富差が際立つ。
建物の豪華さが舗装されてる街道地面からして特色を変える。
点在する広場のなかでも最も大きく、中央広場と呼ばれる場所には幾人もの露天商が並び 様々な作物や調理済みの食料が多様な商品が店頭連ねている。

ふと疑問に首をかしげるアレクサンドル

(魚が見当たらね?)

此処は海の真隣りなのに。そんなこと有り得るのか 今朝大将が釣ってきて食べた新鮮な魚がこれっぽっちもない

(村長のじいさんが卒倒してた多頭水蛇ヒュドラってアイツそんなヤバかったか?)

漁業が本当に成り立ってない。マジか

カーリィナお手製 熱々温度を保つ魔法掛けてくれたカツサンド。
ふわふわふっくらした弾力の甘みのあるパンに挟まれる、辛さと酢の丁度良いマスタードをちょい足しして、幾つもスパイスを独自調合したウスターソースをかけたカツの美味さといったら!饒舌に尽くし難し!!お肉もウチの牧場牛さんから命をいただいてますからね!今日もおいしく生命の糧となっておりますありがとうございます!!

擦れた心を愛娘のお弁当食べて癒されるナマエの視線先で怒号が上がる

「この糞餓鬼い!返しやがれ!!」
「痛ああッツ!!」

浮浪の孤児が露店の果物オレンジを盗むのを店主に引っ掴まれている、店主の図体でかい中年が細腕をねじって取り押さえる

「ふざけやがってッ警備兵に突き出し、ぐえア!?痛え!! ──っ、は?」

突然 額を突く鋭い痛みに悲鳴が出て、盗人の餓鬼を取り押さえていた力が緩んだ隙に逃げられてしまう。訳分からず痛みの発生する額に手当てたら

「銀、貨‥‥?え、なん──だ?」

茫然、貨幣銀貨が降ってきた?ハテナが思考占めてる果物店主の横を通り過ぎる

「おいおい(まーた貯金使いやがって)」
──んーお金はなんとかなるって。

ポケットマネー。ズボンポケットに手を入れて人目に悟られぬよう目隠しした状態でアイテムボックスから住民との共有財産 銀貨一枚を拝借し、指弾で店主に飛ばした。

無事に男の子は食べものにありつけたと

「アークよ この街どう思うね」
「別段何とも」
「だな」

こんな街 要らないや

ご馳走様を唱えて。
ランチボックスを息子に預ける──

「それ。私が合図したら中身のものを取ってくれ」
「中身?」
「まだ見るなよー、貴族のお偉いさんがどんな顔で青ざめるか見物だぞ」

愕然と思わず立ち止まる。
コイツ!事前にこうなるって分かって用意してやがったのか!?

昼食まで腹ごしらえして気力も充分満たし、此の街の当主に何する気だそいつに同情の念が湧く

(ヤベエ俺らの大将──ッ!)

「とりあえず<念話テレパス>の練習しよ。」


全部まる聞こえだ息子




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