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眠るのが怖い

他人が怖い痛いのが怖い触られるのが怖いこわいこわいこわいこわいこわい怖いごめんなさいごめんなさいごめんなさいこんな娘でごめんなさいこんなに汚れてごめんなさい嫌なの嫌なのに目を閉じると汚らわしい手が体をまさぐる気持ちが悪いやめてごめんなさい嫌厭いや見ないで触らないで聞きたくない痛いいたい痛いいたいいたいやめていや死にたくない


たすけて


激しい鼓動の脈が頭のなかで響いている──清潔なシーツの海、ベットに横たわり天井向かって必死に伸ばす手を。握り返す だれ

<清潔クリーン>の魔法で羽毛の如くふわりと一瞬 娘の体がシーツごと浮き、ひどい寝汗と湿る重苦しい空気を乾かす。洗い立ての朝陽を帯びた清々しい香りが部屋を満たし、呼吸を楽にしてくれる。

手を握ったまま 怖くない この子は

「やぁ昨日はがんばって診察を受けてくれてありがとう」
「えり‥くしーる‥‥、様‥‥」
「ナマエでいいよ」

まるで救けを乞う娘の、伸ばしてた手をやさしく柔らかな所作で掛け布団シーツの中に戻し ついで──触れるか触れないか寸前距離を保ち。彼女の下腹部の上へ



全身が緊張で跳ねる

「傷跡も消えているだろう──なにもかもきれいさっぱり消えた」

体温がすこし届いている 自分の腹を掻き毟って爪痕が幾筋も残っている傷が昨日の診察したうちに完治していた。それにあの、過去忌まわしいけだものにおかされた証拠も事実も

「ほん‥と、?」
「ああ」
「わたしきれい‥‥‥?」
「綺麗だとも。ただご飯を食べていなかったそうだね‥‥ご家族が心配してるよ、少しずつで大丈夫だからあったかい食事を皆で食べよう」

ベットの側で椅子に腰掛けるナマエは身を傾けて、娘の視線を寝室のドア前で見守っている御両親と、恋仲であろう若い青年へ向けさせる

「その涙は皆さんに拭いてもらおうか」
「──っふ!うっううぅぅ‥〜〜ッ!」

ずっと怖かった暴力地獄の日々。やっと息を吹き返したかのよう押し殺していた涙を溢れさす娘の元へ駆け寄るご家族たちと入れ替わり部屋を退出する

「っエリクシール様!」

住民の一人この家の家長が娘を抱き寄せながら、感涙の謝辞にこうべ垂れる

「有難うございます‥‥っ!!」
「いいんだ。また様子見に来るよ」

ドア閉める前に同じく深く礼をする。

南区画。心を閉ざす──元領主によって深い傷を負った若い娘と。その家族が住まう<秘密裏の小屋>グリーンシークレットハウスから出てこられた

「ナマエ様‥!」
「とりあえず懸念は解消された。あとは皆の支えと、あの娘さんのふんばりどころだな‥‥私も出来る限り顔を出そう。それよりモヴウ村長 昨日はすごく疲れたろう、休んでていいのに」
「そんなっ!貴女様の苦労に比べましたら‥‥!私めの疲れなど、‥この度はわざわざご足労いただいて感謝致しますっ!」
「いやいや相談ならいつでも聞くとも」

うら若き娘の未来。立ち直れる道筋示してくださった、親族ではないが他人事では済まされない。心の底から感謝述べ頭を下げるのに、貴女様は同じように腰を曲げ最敬礼する姿勢を忘れないのですね

「ありがとうモヴウ村長。今回と同じ地獄に遭っている民はまだ苦しんでいる。彼らの声を聞き漏らさないでくれ必ず助ける、貴方も無理し過ぎないよう御助力求めるよ」
「かしこまりました‥‥!」

固く手を結び視線とで頷き合う。

「あっと。忘れてた──この家の娘さんにこちらを、寝る時 枕元に置いておくとよく眠れる魔法が込められてある」

段々と上級水晶の扱いがわかってきた。はじめは<付与魔法>エンチャントマジックでしか──ナマエが習得している主力の強化魔法や転移魔法しか封じ込められない、と。そうではなかった
カーリィナだけが持つ<睡眠スリーブ>の魔法も。上級水晶を一緒に手に持っている状態で<付与魔法>エンチャントマジックを込めてみたら見事封じ込めるのに成功した──益々用途が広がり、生活水準が高められる。

(なんでか同時に魔法使ったときカーリィナが様子がおかしかった?ような?大丈夫って言ってたけど魔力にも限界があるし、慎重に扱わんとなぁ)

ナマエ本人はまだ気付いていない。
娘カーリィナにとって主人と共同作業するなんてご褒美!天にも昇る狂喜に打ち震えて鼻血が噴出する寸であったことを 水の最上位精霊であるカーリィナに血液は通っていないのだが比喩としてこれが適切

「ッちょ!ちょっちょっちいいぃイイイよろしいのですかアッ!?こっここれは大変貴重な水晶でございましょう!」
「(ちょ?)いいのいいのーむしろ有り余って困ってるんだわぁ。使わなきゃ損ってもんさー」

薄紫色の水晶をアイテムボックスから大量に取り出しモヴウ村長に授ける、好きなのお取りよー

「はわわわわ‥‥っ!」
「皆さんの貯金ちょっとばかし使っちゃった謝罪と受け取ってくれ。効果が切れたらまた相談してじゃ頼んだ」

両腕いっぱいに抱えるのに落っことしてしまう程。財産使っちゃったとかそんなこたぁ気にせんでいいんですよ!?恐らくこの水晶1個だけでも換金したら天文学的数字になる!そそそれをぽんっとこんなに大量にくれるとかどんだけ貴女!懐というか心が広いの!!?

荒れる心のツッコみとは反し、茫然と固まるモヴウ村長に気付かず手振りして屋敷に戻るナマエ。
鈍感過ぎるとかそんなレベルじゃなく、単に細かいこと考えるのが苦手なのである。結果良ければあとはなんとかなる精神でホントにこれでやってのけている。馬鹿みたいに運に恵まれている──息子アレクサンドルから馬鹿と云われた無理もない。勢いが大事な局面でこのナマエは最大限能力が輝く、とだけフォローしておこう。



一気に意識が浮上してカッと目覚める。嗅ぎ慣れた大将の匂いが満ちて天蓋ベットの天井が視界を覆い。勢い付け上体を起こす

「おっ。やっとお目覚め?」

指鳴らして枕として<治癒魔法>掛けて看病してくれていた分裂小マシュロを庭に転移戻す。

「な、ッ何しやがった‥!?」
「ふふんお主もまだまだよのぅ」

何キャラだ!畜生このしたり顔が無性に腹立つ。本来の魔獣の姿でも敵わなかった──起き抜けに僅かに朦朧とするのをかぶり振って意識を定める。
によによしながらナマエはソファーに座り、机上に積もる資料書類の解読進めていた。

ここにカーリィナが居たらナマエに気付かれないよう、兄アレクサンドルに向かって鼻で嘲笑する事請け合い。しかし今は朝食後にナマエと戯れていた、疲労困憊 指の一本も動かせないベイとゴルドを慈悲無く引っ張って座学に放りこんで。鬼教官として教鞭に立っている。
学科は主に効率的に敵軍を押し留める、近距離戦闘技術指導であるこの内容 結構えげつない

妹の上から見下ろしてくる嘲笑が目に浮かぶ、舌打ち一つ。ベットから腰掛けて項垂れる

「そんで?言うこと聞くさね」
「おお覚えててくれたかー。よしよし」

さっと書類をまとめて置いて、項垂れている息子の元へ肩をぽんぽん叩き


「ちょっと英雄になってこい」


この親はいつも唐突過ぎンだ訳分かンね


盤上の駒は既に解き放たれ 生きる




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