Act.000 Prologue


宙に散らばる星々でさえ
月明かりすら差し込まない闇のなかでも母の胸のあたたかさが娘の安寧である

その安寧が今壊されようとしている。

娘を背にかばい、兵士の前へ立ちふさがる母の頭上から剣が振り落とされる。意識するよりも反射に近い速さで大地を蹴り、一気に母の背後から跳躍 剣を奮う腕に噛み付く。
呻き漏らすもすぐさま娘の頭をわし掴みあらん限りの力で振り払い、蔑む呪詛を吐く。

「亜人め!」

娘の耳は人のそれではなく。豊かな短毛に覆われ顔の両端から髪を掻き分けて突出しており、腰の後ろからはネコ科の尻尾まで現れている。地面に擦れながら倒れこむ娘の元まで駆け寄り、覆いかぶさる母。

「フェリシア!どうかこの子だけはっ」

兵士、そして幾人か村の男たちに囲まれ懸命に娘を守ろうとする母も人と謂われる種である。娘──フェリシアだけが唯一の異質。
地に叩きつけられた鈍痛で意識が朦朧とするなかフェリシアは産んでくれた母を恨んではいない、命の灯火が消えゆく瞬間まで自分たちを護ってくれてた亜人の父を憎んではいない。ただただ己の無力さが悔しい
思うよう力入らぬ手を母の腕の中からもがき伸ばし、剣を振りかぶる兵士へ

まだ死ねない──!

風切り音が後方から聞こえたと同時に爆発が眼前で起こる。
強烈な突風でとっさに目をとじる瞬間 人が横っ飛びで兵士の胸元、鎧ごと砕き蹴り抜いた
信じがたい光景に夢でも見ているのか。爆発の如き衝撃波が母娘の周りに傷ひとつ付けず止んだあと、瞼を開け瞠目する

重力を感じさせぬ軽やかな身のこなしで着地し、文字通りドロップキックで蹴り飛ばした兵士には目もくれず芯ある真っ直ぐな瞳をフェリシアへ向ける

「いいぞネコ耳娘!理不尽な暴力に死への恐怖を抱きながら尚闘おうとする、世界が神が突き放さそうとも私が見捨てたりしない」

夜陰を晴らす煌めきを纏う

「手を掴め!ナマエ・エリクシールの名の元に運命を覆すその願い勝ち取ってみせろ!」


傭兵ソロプレイヤーはかく語りき





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