023


届カナカッタ


「貴様と私でPVPだ」


<不落要塞><能力向上><能力超向上>
<知覚強化><流水加速><魔法抵抗強化>
<剛爪><疾風加速>


遥カニ遠イイタダキ


ナマエはそれほど攻撃魔法を習得していない。ユグドラシルで存在する魔法の数は第一位階から第十位階それに超位を加えて総数六千をゆうに超える。これらが複数の系統に分かれて存在するのだが、通常の100Lvプレイヤーが使える魔法数は三百──しかしナマエが習得しているのは百三十八。強化補助バフ付けを主力として依存している。

そんなに覚えられないからである。
馬鹿だから いちいち面倒なのだ。
詠唱して撃ち放つまでの時間が。

この世界で戦士系のクラスを得た者たちが行使出来る武技──身体能力向上、攻撃に特定の属性を加えるなど様々な効果を得られるその能力を。幾つも骨の身を強化してまさに<神技一閃>を

砕いた。ただ握って──

利き手だけを限定して、鱗に覆われる本来の姿 素手一握りで強化魔法を使うべくもなく。武器破壊する──ナマエの種族<人魚>マーメイド最大値十五レベルに達せれば獲得出来る、七色鉱の超々希少金属と同一の頑強さ誇る鱗。それが全身覆えば下手な装備防具など不要。つまり全身武器として殴打すれば

かるい器が割れる音で頭蓋が吹き飛ぶ。

勝負にもならない──
ナマエは無駄な攻撃魔法を一切取り捨てて自身と自軍の身体強化のみを重きに置く。それが一番自分のスタイルに合っていると、種族職業趣味をあわせてレベル構築した。常時発動型パッシブスキル<水流操作>だけで正直 戦闘はどうとでもなる。

PVP宣言して1秒。
骸骨将軍が瞬く間に武技をバフ付け重ねて神速の一閃。鎌の一突きあえなく砕け散る。様々な鈍色に変える怒りを占める朱の焔が燃え盛る頭蓋骨も、僅か1秒の間に殴り吹っ飛ばされる。

四,四メートルある頭上へと跳んで殴打したナマエの空中で無防備になった背面を狙い 残り五本の鎌が炎を噴き奮う。

背後から噴き出す熱に感付き
(へー火か。いいとこついてる)確かにナマエの弱点は火。水棲種族故。

灼熱炎を纏い か細い背を貫くよりも迅い大瀑布の海水水玉によって圧し呑まれ粉々に巨体骨の身が散る。

また1秒の間に決着は見えていた──

重力に沿い。小波さざめく砂浜に着地したナマエは握り拳をほどいて、掌から焔の目玉を視線合わせ上に掲げ

「名は」

徐々にかき消えていく火の瞳が見開き

「まだ名前を聞いてなかった」

戦闘後とは思えぬわだかまりなど見えない女の芯ある真っ直ぐな瞳とを見詰め

「<踊る刃の髑髏ソードダンサー>──」

そりゃぁ種族名だろうが。

「ナマエ・エリクシール──また何度でも挑みに来い。いつでも相手になろう」

強イ

三日月型に火がゆらめき同調して微笑む

「楽しかったな」

朱色だった火が風前の灯火に蒼色 清浄な白色へと変わり満足げに目をしずかに閉じるよう潮風に乗って去っていった──ソードダンサーか。ユグドラシルにはいなかったアンデッドだったが面白いヤツ また遭えるだろう

少しスリルもなきゃぁ
人生楽しくないってもんだ

鼻歌でも口ずさみたい心躍る一戦だったがやらなきゃいけないことが残ってる。

無数のアンデッド軍勢を刹那にして滅ぼした──人間の女?が再び幼子に姿を変え。多頭水蛇ヒュドラは頭のなかで響いてくる声に意識遠のく気を失いたいのにちっぽけなプライドが邪魔をする

あの死を宣告した声
──おーい多頭水蛇ヒュドラ

海岸にて強張ったまま水面が激しく跳ねあがって巨大な体を震わせている。
<多頭水蛇ヒュドラ>はあまり知能が発達していない。しかして本能で殺されると悟ればなんだって怖い。

(あ。こりゃ言葉わかってないな)

<念話テレパス>を用いて多頭水蛇ヒュドラの心のうちを感じたところ言葉というより感情が先走り

ころさないでころさないでくださいしにたくありませんゆるしてしにたくない

と言った心のうちが占めている。<念話テレパス>をぶった切って。ナマエは腰元のズボンウエストから一輪のくたびれた花を取り出して見せる

(何──して、やがんだ??)

茫然とアレクサンドルは。先の鮮やかな主の戦いぶりを観賞してから。スキルで女児へまた変わって何やら保護の対象になった多頭水蛇ヒュドラとジェスチャーで対話している様子をただただ眺めて──目的を達成したのか、花を腰元にしまい戻し。己に視線を合わせるナマエと無言で以心伝心

輝くサムズアップするナマエと
喜び勇んでガッツ拳で応じるその息子。


「──っはあ!!?」

カッと目が覚めた見張り兵士の青年が体のあちこちを木の枝で擦れ、葉が何枚も身に被さっている。萎えた草がかろうじてクッションとして命拾いした、すぐ傍で伸びている相方を揺すって起す。

「おいッ起きろ!!」

壁が。見張り台が。海が。
砂の地に足を着けて水平線が見渡せる
こんなこと生きて実感できるとは

更に衝撃は重なる──!!

海岸に十二の頭部を持つ巨大多頭水蛇ヒュドラが!拍手なんて緊張感ないのか!?褒め讃えている子どもの目前で、大男がなんだって多頭水蛇ヒュドラの頭を十二全部殴りつけてたんこぶノックアウトしている

「「はあああああッ!!?」」

腹の底から絶叫上げる兵士二名を振り返ってナマエとアレクサンドルは(あ。ヤベ生きてた)心同じくする。

「なッんなんだお前らああアア!!?」

至極当然な問いに。
少女が目線反らしながら

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥と」
「「とッ!?」」

「遠イ‥‥国カラキマシタ‥‥‥ボーケンシャデスー」

なんで片言カタコト!!?

アレクサンドルは思わず顔を手で覆い、天を仰ぐ。

しかし不意に直感が働く

(あ──。結構良くね?)

他のきょうだい差し置いて己が一番ナマエの傍に居られる──死が分かつまで

「アークってンだ」

事前に用意していた偽名さえも教えてしまった息子に内心仰天。瞠目してナマエはいきなりの情報過多に処理が追い付かない感覚に襲われる。

「その子、の‥父親 か?」
「そう取って貰って構わねェ」

頭を抱え大きく深呼吸2回。冷静さを取り戻したナマエは──いつも自分の後ろに控えていたアレクサンドルが。自ら人間と会話を試みた。そう、例えるなら赤ん坊だと思っていた我が子がはじめて大地を踏みしめ二足立ちした。晴れ姿を成長を間近で見られた感動に両膝を砂浜に埋め、頭上天高く二つ拳を突き上げる。

ウチの息子が尊い!!!

「あれは‥‥何だ?何かの儀式かっ?」
「イヤあれは──まぁ。ガキだから、何してるンか分からんモンだろ」

アレクサンドルの機転(とナマエの親馬鹿炸裂)によってなんとかこの場を切り抜けられたのであった。

(ウチの息子が!!)
(わーったから‥っ!恥ずいわ!)


<念話テレパス>で無事は確認していた。カーリィナは拠点屋敷の玄関前で夕飯の支度を完璧に、転移魔法で帰宅したナマエとアレクサンドルを出迎えして一礼

「ナマエ様──お帰りなさいませ」
「はい。ただいまです」
「たでーま‥‥」

なにかおかしい。一礼から姿勢を正して心中で首をかしげるカーリィナ。とは別に、同じく出迎えに並んでいるモヴウ、ベイ、ウーノが主とその息子の帰還に安堵して、胸を撫でおろす。

ナマエがおもむろにアイテムボックスから大きな風呂敷に溢れんばかりの苗から土掘り起した色とりどり満開の花を土産に取り出す。言う事聞かせた多頭水蛇ヒュドラから教えてもらった、海岸の崖上にある花畑から拝借し花々を持って帰ってきた。

御供えするのに又、拠点にて育てて欲しいと。花を取ってくるとフェリシアとセトラとの約束を果たした。だがしかし。

「ごめんなさい──冒険者登録する際にお金使っちゃいました」

いつにないナマエの頼りなさそうな言動に なんて?言ったか意味不明すぎて理解出来ず

ん? ──っんん!?


流石に調子こいた


ナマエとその子きょうだいは知らない。
知る由もなく、知る術も既に絶たれた。

ユグドラシルで不定期に開催していた陣取り大規模イベントがあった──

プレイヤーは各自ランダムにそれぞれ五つの勢力に別れて配属。自軍の旗を相手の軍地へ攻略して掲げ、旗色の面積を広めるという賞金が懸けられたイベント

そこにあるソロプレイヤーが自軍に仲間入りすれば。他の四つ軍を制圧必ず圧勝出来るという戦女神の如き化身アバターがまことしやかに囁かれた──

プレイヤーの多くが其者に多額の金貨を報酬に仲間に入ってくれと頼み込もうとしたが、捕まらず。雲を掴むような本当に居たのかさえ定かではない。そのイベントもランダム仕様なので同じ陣営に入れる保証もなかった。
なにより其者はソロプレイを好んだ。

其者はある時は少女の姿で
其者はある時は人魚の姿で
其者はある時は騎兵の姿で

複雑怪奇 常軌を逸したかと総毛立つ程
命令を只単純に聞いて動くに過ぎないNPCに。まるで命を吹き込んだかのよう思考、自我、心まで宿すAIを組み込んだ三体のNPC──

回復スライム、前衛キマイラ、後衛ローレライ。この三体を連れ添って軍略を駆使するゴーストプレイヤー

誰も気付かない
気付こうとしなかった
何故ならこれはゲームだから──

誰も自分が前進したら周囲のプレイヤー達の動きがどう変化作用するなど把握しない。

何百何千何万という他のプレイヤー
一人一人のステータス、種族職業によって行動パターンが決まり個性からどう始動してくるかなど念頭に置かない。

其者は観ている世界が違った。

極少数の人数で働き
最大限の功績上げる。

英雄と成り得る他のプレイヤー数人 見繕って支援する。勝利を阻む敵となって挑んでくる勇者を罠に嵌め。魔法詠唱者マジック・キャスターから片っ端に狙い堕とし。盾役の愚鈍な守り手を正面から叩き潰す。弓射る狙撃してくるなら射ってくる銃弾雨を天災で撃ち落とす。

そうして導いてきた──
最高位ランカーの称号に名は決して刻まれない影にして頂点。

英雄の称号などただの飾り。
ナマエは上には目指さない。
単に賞金が欲しかっただけ。

勝利とは何か それは戦う前から決まっている。事前の予測備え情報収集、相手の手数力量能力を見極めて挑めば勝利は必至と考える。

それがみょうじなまえにとってのゲームだから。ナマエは誰ともつるまない。この無限とも言える遊べる自由を何者にも侵されたくなかった。
であるからして他のプレイヤー 誰の記憶にも残っていない。
戦女神と呼ばれていた等全く興味無い。
現実世界の誰もみょうじなまえの真価は見出せなかった。唯一人従兄を除いて。もう逢う事も叶わないが

けれどこの異世界は少しは愛せそうだ
ナマエを必要としてくれる者がいる

ならば応えよう。その期待に

守るものができるというのは
嬉しくもあり気恥ずかしくもあり

ナマエは全力でこの世界を謳歌する


たとえ自分がいなくなっても
皆が同じよう日々を楽しんでいけるよう


出来るだけ長く生きてたいと思う。



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