022
無念だ。
其は志半ばで討ち取られた
憎い。
其は帰還を果たせなかった
未だ。
其は生きていたかった
どうして自分が。
其は伏して尚 剣を手放さなかった
もっと。
其は闘いたかった
誰か。
其は敵はどこだと さ迷った
首を命を血を肉を啜って渇きは満たされないまだだもっともっとよこせここにいる勲を功績を栄光を我にはなにもいらないたたかいたい闘え敵よ相手よ剣を交えようしんでしんでからも冥府にまで地獄の窯のなか堕ちたとしても闘争よおわらないでくれ我は俺は私は自分はまだまだまだまだまだたたかえる剣をふるえるもっともっともっともっともっとよこせ力を敵をだれだどこだあいてはだれか我を我々を其はここだここにいるだれかだれ
闘エ死ノウアノ女トミツケタ アラワレタ アレダ
なにものにも縛られずなにものにも屈しずなにものにも執着しない突き進む狂気の沙汰
蜘蛛。骸骨。剣。黒。
全長四,四メートル、漆黒の八本節足骨が鋭利な長剣となって巨体を支え蠢いて地を立ち。肋骨が剥き出しがらんどうの真っ黒な腕骨が六本鎌の形状でカチカチ刃を擦り合わせている。名を。呼んで叫んだ。ガラスを引っ掻く不協和音がどうにか言として聞き取れる。
虚空の眼窩から烈火のあの瞳を憶えてる
闇から生まれた黒い骸骨
朱とも蒼とも紫とも鈍色の焔の魂を瞳に
嗤ったぞコイツ──?
この異世界で初日に遭遇した
死霊がこんなにデカくなるとはなぁ、とナマエは
魔法道具からの警戒アラームを精神的なつながりを以て頭のなかで感知する。
拠点。
獣人全二十四匹が屋敷の屋上バルコニーに待機して全周囲から敵の襲来を聴覚で捉える──
拠点を囲んで敵がやってくる。あれはおそろしい。アンデッドの軍勢。視覚では捉えられない、しかし確実に攻め込んで来ている。
生存本能が脅威を察知した
魚人全六匹は南区画に早急に住民たちを屋敷内に避難誘導して、訓練だと。不安を煽らぬよう 危険はないと宥める。あせらずゆっくりでよいと。そう主から命令を下されている為。
続々と全住民七十二名が屋敷内一階中央ホールへと集まりだし。受け入れに医療対応する
水精霊全十二体とセトラとフェリシア。
地下二階層で各々自身の誇る斧を装備して工房、地底湖、アイテム倉庫、最終避難経路の守護にあたる
丘小人七人衆。
遅れて屋敷玄関へとモヴウ村長を乗せた荷車が転移水門から
対する敵勢力──
死霊二百
骸骨百三十
食屍鬼六十
獣の動死体二百四十
約六百アンデッドの兵力を拠点防壁として張り巡らしている
魔法道具の探知魔法でナマエは遠く離れたこの海の波打ち際から感知し。
目の前の黒きアンデッド軍──
骸骨戦士八十五
骸骨弓兵六十二
骸骨の魔法使い十四
骸骨騎兵三十八
ボス蜘蛛骸骨一体と対峙する
嗤う。嗤いかえす
アレクサンドルに握り拳を見せて待機の合図。親指向ける先の背後に居る
多頭水蛇を守れと以心伝心。
コイツ私の真似をしたな
夕暮れの。アンデッドが活動する現時刻 日暮れとともに配下に付けた軍勢を以て挑んで来た。私もやった。元エストルグ村を陥落に追い遣った。敵の手段を真似て自軍にも同じ戦略を実行する。
やりやがったコイツ
それだけだ。ナマエの拠点に住まう民は
それしかいない。
それでもナマエは
嗤いが込み上げる闘争を愉しもう其処に誰が居ると思ってる──
屋上バルコニー。屋敷頂点の階上を昇りきった展望台に立つ。
メイド服のスカート裾を風にはためかせ
美しくしなやかな佇まいで目を閉じ。拠点一帯を覆う防壁から探知する──六百四十四体のアンデッド勢力を正確に認識──緩慢に瞼を開けるとともに<
念話>をつなげる
足元から展望台床面積をも超える範囲の魔法陣を展開。自身を中心に周りから湧き上がる水が鏡と形作る。鏡面に映し出すアンデッド全六百四十四体の姿を八枚の水鏡が光速で横回転一周して配置されている位置把握する。
アイテムボックス──手元の空間から湖面に沈むようゆったりと手を中に入れ、腕が途中から消えたよう見えたに違いない。階下バルコニーにて固唾を呑む
獣人たち全員が目にする
異様なほど長い銃身 透明それは無色
けれど硬くそのものの確固たる強靭な
揺るぎない意志を顕す──長距離狙撃銃
構えスコープから覗き込み。前方の十二時方向に浮かぶ水鏡に映る
死霊が 攻性防壁を破らんと無様に踊る様を視点定める
拠点中心シンボルになっている巨木から五十q離れて
<不死者忌避>のうすい膜をこじ開けようとするアンデッドには水鏡は見えない。現れていない。しかし死した身体で悪感がはしる──生きてきて最期の瞬間味わった圧倒的滅ぼされる戦慄
──整いました。ナマエ様
娘からの<
念話>。
──客人にどういった対応致しましょう
いつもの通りだ。念じて返答
「承認」
光量上がる魔法陣の清廉たる光りが長距離魔導銃に収束する。スコープから広がるアンデッドの無数の脳天へ標準合わせ
「これより殲滅に移行します」
自身の周りにも残り七丁の魔導銃を召喚 水鏡と対と成す。
引き金を引き流星群が一斉射出
ナマエはただ一言
「1秒だ」
<狙撃光輝弾>前進はしない。一歩も。黒の軍団が立ちはだかろうとたじろいて後退なんぞ以ての外。
此処をどこだと思ってる──?
"ウォーターハンマー"という現象がある
圧力が一点にかかった水は、容易く鋼鉄を破断させ。水面に撃ち込まれた銃弾は三センチも潜らず、真っ平にひしゃげて跳ね返される。
金剛石をも寸断出来る水圧カッターもこの原理が持ち入れられている。
即ち水とは その圧力や速度によって
地上最強の物質に変化する
一秒一拍一瞬。黒の骸骨将軍が引き連れていた軍勢百九十九体が粉微塵に粉砕。
<水流操作>で微動だにせず海水を矢の形で穿つ。ただの
死霊がここまでやってくれるとは思わなんだ。だが貴様は大いに間違えた
海は私の独壇場だ 負ける訳ないだろう。
星煌めく閃煌の弾が枝分かれし。突如正面から出現して射ってくる神聖属性の雨が貫く。断末魔を上げる間もなく。脳天から浄化され脆く朽ち果てるアンデッド残り五十六体
魔銃を下ろし──カーリィナは優雅に白の絹手袋をはめる手で指鳴らす
星屑と成って空中に散乱する光りの微細な量子光子が。爆散。残存するアンデッド諸共──塵ひとつ無く消滅して灰燼の一途を辿る。その様子を一部始終 水鏡で見ていたベイや他の全
獣人は驚嘆に思わずため息が出る。
「何をそんなに驚いているのです」
水鏡と魔法陣をしまい。全八丁の長銃もアイテムボックスに転移させて。理知的なつめたい視線で
獣人を見下ろすカーリィナ
(え?)
「この程度で動揺するなんて主人の面目が立ちません。畜生の足りない頭でも良ぉく刻み込んで教育して差し上げます。感謝なさい主人の御慈悲を、これぐらい出来るようにならなければ朝日は拝めませんよ」
無理です。姐さん獣人の全員が凍り付く。なにもかも規格外過ぎて追いつける自信の欠片もあったもんじゃない。ベイは既に腹を括ってた。他の
獣人たちも、このメイドならぬ冥途使いを従者として、上に立ってるナマエに絶対逆らったらダメだという意識を確立化する。
真顔を保つカーリィナが──第七位階魔法とスキル<重火器貫通特化X>を併用して発動した先の攻撃。魔力を消費して肩からずしりと倦怠感が否めない。いや余裕はある。
再詠唱時間を身を以て感じて総魔力値を算出して一日に十回は使える。自分よりも長く戦場に立たれる主人の畏ろしい手腕たるや崇拝する。
カーリィナ=ジズは自負している。
自分が最もナマエに愛されていると確信している。否定や消極的な発言疲れ等、一切顔に出さない主人を思慕する。あの御方から家の留守を託された。ならば敵となる塵一つ残さず払おう。
お帰りになされる時に隅々まで片付け清潔保つ屋敷。そこに主人と自分が居れば完結する世界。ナマエ様の帰る処に私が居る。メイドとして従者として愛されて必然。
避難訓練と称し。次いで住民らの健康診断へと切り替わって。補佐して屋敷内をくるくるまわっているフェリシアの側付きに任命されているマシュロは。
この時末妹の露払いした働きに気付いていない。ただナマエの言葉しか聞けないのだ。創造主が何を考え創造主が何を想い行動しているか理解の範疇を越えている。マシュロは日がな一日を悠々自適な日々を過ごしていたい、それだけを考えている。
「い──きてる‥‥‥?」
記憶があいまいだけれど雷の轟音とひどく熱かったのはかろうじて覚えている。モヴウは目が覚めたらどういう訳か家路に着き、一瞬孫にも再会できた。そんな意識がふわふわと浮遊してるなか何か重要なことをだれか忘れているような
あとで皆 褒めなくっちゃ
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