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「貴方はえらい!!」

進む──!!

「よくぞ私たちがやって来るまで生きていてくれた!!辛かったろう苦しかったろう恐ろしかったろう!私には貴方が歩まれた地獄はどうしたって計り知れないよ!!」

朝目が覚めても起き上がれなかった
いつ誰が自分を見ているのかという

恐怖

それでも外へ出て飯の種を食いつないで
いかなければ生きてこれなかった

貧困

課せられる重税 育たない作物
戻らぬ家族 けだものが跳梁跋扈する

これを地獄と言わずなんという

「よくぞ耐え抜いた!」

光がその御方から昇る。
はじめて相見えたあの日から

「ありがとう!!勇気ある貴方を貴方々住民を!私の、私たちの領地に迎え入れこれ以上の名誉は他にあるものか!そうとも胸を張っていい!私は貴方を尊敬する!!」

迷わず進む──!!

「改めて名を!フルネームを聞いても良いかな!」
「モヴウ・ヘインニ──」

魂が震える
今日まで生きてきて良かったと思える

「ナマエ・エリクシール!どうかこの名を憶えておいて欲しい!皆を照らす未来へと進む者の名だ!」

前を突き進むナマエの背が眩しく
とめどなく溢れでる涙で前が見えない

感涙にむせび蹲るモヴウを荷台に乗せながら、先頭往くナマエに後続して。荷車を片手のみ軽々引いて後ろからついてくるアレクサンドル。

潮の匂いなし。だが判る
本能が引き寄せてくれる

「まったくこの国はマジでどうしようもないなぁ!見たぞ民の苦しんでる姿を!商人たちだって飢えてたぞ!これだから権力者が自分だけは助かりたいと馬鹿を仕出かす!」

巫山戯ふざけるなよ

「そんな国の最後は碌なモンじゃない!要らんわこんな国!知ったことか!」

明日なき王に私の民を道連れにはさせん

「私の創る国に王など存在しないし必要も無い!ひとりが多数を守れる人数なんぞたかが知れているぞ!私は馬鹿だからな!そう出来ることは限られている!」

(自覚あったわ大将) 内心同意に頷くアレクサンドル

「ほんのちいさな国だ!私の腕が届く範囲だけ!それ以外は面倒見切れん!それはそうと海は好きかなモヴウ・ヘインニ殿!」
「うみ──?」

泣くのを段々と気を落ち着かせてきたモヴウがオウム返しに答える。

「私は海が大好きだ!!海は良いぞ塩に魚に蟹が食える!」

(もしや食べものしか見えてない?)まだ感涙するモヴウはツッコめない。

「私の正体は人魚だ!貴方々人間を決して取って喰いはしないむしろ大好きだ!私の大事な民故に!」

快活な笑みでそれが本心だと感じ取れる

先往くナマエの前方が木々の道を終える
陽光がひらけて聞こえてくるさざ波の音

「海は私の故きょ──」

思考停止。

壁。

丸太の壁。

砂浜の地に踏み入れたのに前を塞がれる

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥なんだこれは。」

前方停止したナマエの背後で。荷車引く歩を止めたアレクサンドルだけが地を這う低い囁きを聞き取れた

これは──マジでヤバイ

丸太で築いている壁の頂上から。見張り台より青年と中年男性二名の兵士が立ち去るよう声荒げ

五月蠅うっさいわ馬鹿ー!!」
「「ッはあああああ!!?」」

「誰も私を阻めんーっ!」

怒り震え俯いてたナマエが顔を勢いよく上げたのと同時に怒号して跳躍

「うおおおああ飛んだァ!?」
「何考えてるチビ助ーッ!!」

なんと軽々と頂上、先端鋭利に削られて尖る丸太の壁を容易く飛び越えていったナマエに兵士二名が絶叫。

モヴウは何となくわかってた。
アレクサンドルは──

「おいいい!!アンタ親か!?何ぼーっと突っ立ってやがんだ!子どもが海に入ってたぞ!!?」
「今すぐ引き返すよう呼び戻

「──っブハ!ハーッハッハハハ!!」

そうだ!これが俺たちの大将だ!!

「あわわわわ‥‥‥っ!!」
「何を笑ってるッ!!?」
「おかしいぞコイツら!!」

軽やかな身のこなしで砂浜に着地して、ナマエは壁の向こう側から呼びかけてくる息子の声にはやる童心を抑え歩をなんとか留める

「この壁どうすっよー?」
「私の命令は変わらんぞ!邪魔するものは何であろうと叩いて潰せ!!お前の居る処に私も居る!違うか!?」

云ってくれるねェ

「そんじゃァまっ派手に往こうや」

利き手の小指から拳を握り締め。
筋肉が隆起する腕を構えて引く

閃光の如き迅さで五臓六腑に響き渡る轟音とともに兵士二名が吹き飛ばされる

拳を振り抜いたアレクサンドルの頭上に天にばら撒かれる丸太幾本と。人の目では捉えることも、遥か後方で木々へ消え失せた兵士二名の影が光速で墜落したのをかろうじて感じたのかさえ。

モヴウは荷車に乗ったまま茫然と顎外れて硬直。言葉も出ないとはまさにこのことだ


テンションがおかしくなってたんです。




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