019


アレクサンドルは自覚している。
己が次男坊であることを──長男か長女だか性別はさておき ナマエによって命を創造された最初の長子はマシュロである末妹にカーリィナ=ジズが居て、三兄妹の真ん中に位置する。

アレクサンドルは記憶している。
己の体は──誕生する前 自我が生まれるよりも核となる種からナマエによって様々なモンスターの遺伝子を組み換えて唯一無二の<混合魔獣キマイラ>として創造されたことを。生まれてから最初は長子マシュロと、己の創造主に仕え幾つも世界を駆け抜けた冒険の日々、それから後に己だけが一番長く付き添える栄誉を。

アレクサンドルは危惧している。
己の創造主たるナマエは──時に畏ろしいまでに思わず圧巻身震いしてしまう程 用意周到な戦略を構じてからの、瞬時に実行に移る矢の如し行動力を。だからこそ危うい。時に童心に戻って従者すら放っぽって、我先と一人突っ走る。

(自分が大将って意識してるか──?)

ヤバイ。この僅かだが無鉄砲さ。

(国創るとか云っちまった、宣言しちまったぜこの大将は!こうなったら止まりゃァしねェ)

アレクサンドルの魂にまで刻んでる。
己の創造主は。こうと決め、言葉に発した事柄は、否応無しにマジでやってのける。

それ故に誇らしい──臣下であり息子として、心酔している。

(まーァいつも通り 敵には容赦しねェ)

己が主を見失なければいいだけのこと。
ナマエが往く処に己が存在する、建国した先の世も 安寧を民に約束したその未来も 永劫仕えると世界の果てまでついていくと己も宣言した。

(だったら魅せてもらおうじゃねェの!特等席だ!一等席の最前列!大将の傍で国を創るとこが魅れるンだ!堪ンねェ!!最ッ高の誉れじゃねェか!)

痺れる興奮が武者震いが、全身足の爪先から脳天まで湧き上がって忠誠心が天を衝く。獰猛な獣の性が にやつきが抑えられない。

のんきに草花摘んでるナマエは、息子の滾っている様子に気付いていない。一点集中すると周囲が疎かになってしまいがちこの親にしてこの息子あり

「んー‥‥花はさっぱりだ」

御供えするのになにがいいのかわからんっていうかここら辺 今一パっとしない。

「村長、もう一回確認しますここホント海の近くですか?貴方の把握している地理感覚で転移して来たんですけども」

この異世界の全国地図は未だ入手しておらず。必ずや西方角あると確信してモヴウの脳裏よぎる海へと転移してきたつもりが。
乾いた土に萎れた草木、くたびれている花に首をかしげる。土壌に栄養が行き届いていない。木々が邪魔して先の地平線が見えない。それよりなにより潮の匂いがしない、さざ波の音すら聞こえない。えええぇー上位転移使ったのにそれはないだろう。

「あっあのぅ海は 危険なんです‥!」
「危険?」

顏を青白くして怯えに震えるモヴウに花摘む手を止める。

「こ この土地に住む者は皆怖れてます、海には凶暴なモンスターがいると」
「漁業は?」
「じゅ、十年も前から漁師は職を失い‥徴兵に家を空けてます」
「交易は?商船もないか」
「海上他国との交易はしてま、せんっ‥国内で補おうと、土地の資源や農耕でしのいでいる現状です‥‥!」
「ああ村長だから最初ここに転移した時 海を避けたのか。私を危険から遠ざけようとしてくれたんだぁ」

(あ。ヤベェ)主の纏う空気が変わったのを察知する。
モヴウは言えない──エリクシール様がぐいぐい引っ張るものだから早く家に帰りたかったのもある、

「村長」
「ひぇッ」

屈んでいた体勢からゆらりと起立して、俯き。腰引いてるモヴウの肩にぽんっと手を乗せ

「よく生きてたな」
「え──」

怒りなくさっぱりとした清々しい表情。
(んん?)アレクサンドルはナマエの気を利かす態度に真意を測りきれない。

「いや先刻 私の創る国と言っても具体的にどういった感じで進めて往こうか、まだ全部は決めかねてたんだ」
「え、はぁ‥私めどもとしても、充分過ぎる敷地でありますから‥‥領土は広めない まま?という‥こと、でしょうか?」
「いいえ?そういえば私たちの正体を明かしてなかった」

ここでピンときた。
以心伝心。意志のつながりを確と感じ取りアレクサンドルは人ならざる本来の姿に戻る。

「ふおああああッ!!?」
「危険とは私たちのことを指す」

モヴウの肩に添えていた利き手だけを限定して、鱗に覆われる水掻き爪をわざと披露する。

「私に 危険だから?あそこは近付くな?凶暴なモンスターがいるぞ?そんなお優しい気遣いは無用だとも村長」

あまりの衝撃的な光景を前に腰抜かし、モヴウは自分の内なる変化に気付いた。

(こわ──く ない‥)

死を乗り越え獣人と共に住むと決めた。
この御方に命を預けた。

「私が欲しいのは土地ではなく海」

ならば最後まで信じてついていこう──


「海を奪る」



さざ波の音が響く。寄せて引いて
砂浜に人は立っていない──近付けないのだ。波打ち際を目前に、人と海とを断ち切り遮断する柵。五メートルの丸太を一本ずつ地面に打ち込み壁として築き上げている。
壁の頂上。見張り台から海を警戒する兵士二名がふとして後ろ、木々生える土地から荷車の押してくる音に見下ろすと

「子ども──?」
「何だ どこの田舎モン共だ」

年端もゆかぬ少女が先頭を歩き。後続して荷車を押している大男と、荷物と一緒に荷台に腰かけている老人

「お嬢ちゃん?ここから離れた方がいい海には恐ろしい魔物がいるぞ」
「観光ならあっちの都市に行け」

丸太で築いている壁を前に、少女が歩み止めたのと同時に荷車も止まる。

「おいっ!さっさと立ち去れ!」

頭上から表情は窺えないが、何やら俯く少女の体が震え

五月蠅うっさいわ馬鹿ー!!」
「「ッはあああああ!!?」」

(やっぱ考えなしだった。)
この緊急クエスト終えてからアレクサンドルは後になってそう悟る。


夕飯前に片を付ける!




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