018


ナマエの能力値ステータスを紐解けば。戦士系や魔法詠唱者マジック・キャスターの職業で固めた戦闘重視するプレイヤーよりも総合値は劣る

主に補助系となる職業選択でレベル上げしている。100Lvを誇る身体能力はこの異世界では他の追随を許さない力量であるが、ナマエはユグドラシルゲームというその独特の世界観に魅入られた。まだ誰にも到達し得てない未開の地、果てしない空や海の向こうの先には何が待っているのか。九つの世界を渡り歩きその総てを自分の足で目で感じて来れたからこその職業──<商人あきんど>の職業クラスを選択したのだ。

金は天下の回り物!!

ぶっちゃけ資金が無いと何も始められないという。ナマエは危ない橋を渡るのであれば自分で土台から石材料調達して石橋を組み立てる破天荒極まりない性格の持ち主である。だからソロプレイやってどのプレイヤーともつるまなかった、誰もついていけなかったとも言える。

客寄せ担当。威勢よく声をあげて、実演でも揚げたてカレーパンの中身を割って見せるナマエ。
揚げ物担当。完成前のカレーパンをどんどん高温油鍋に入れて食欲そそるきつね色に揚げていくアレクサンドル。
茫然と立ち尽くすモヴウは初めてエリクシール医療団がやってきた嵐を追思する

元エストルグ村の大事な財政源となっていた露天商での食材販売。店を開ける場所を長年に渡り確保している村長モヴウがいなければ、無断で商売してる摘発を回避しての今回同行である。

コネはなんでも活用すべし!!

拠点屋敷から持参してきた簡易テントを露店として開き。空いた胃袋を直接刺激する香ばしい匂いに引き寄せられて、街道歩く者たちがナマエたち露店に厚い半円を築いていく。

看板娘の元気よすぎるハキハキした声によって列が形成され。かれえ?なる名前の揚げたてのそれを数枚銅貨と交換して受け取り。外側は噛むと歯切れのよいカリっとした熱い衣の中身はふわっともっちりした弾力のパン、割って見るととろりと具材を細かく刻んだ甘みある野菜とミンチした肉汁と混ざりあったスパイス効いた焦がした飴色のルゥが包まれてある。

「おっ!おねえさん喉かわいちゃったー?それならこれも飲んでみんしゃーい今朝採れたて新鮮な林檎で作ったジュースだよー!おねえさん美人さんだからタダにしちゃう!」

いや貴女、今少女になってるんですからそんなおっさんみたいな台詞──凄い。もう生きるのに貪欲というか、プライドとか無いんだろうか。
モヴウはこれまでの人生で一度も出逢ったことがない。権力を振りかざしもせずに、その上 露店商売にすら自ら率先してこなれている感がもう凄い。

この少女が自分たち民をお救いしてくださった領主様とは誰も思うまい

陶磁器カップも幾つも用意してあり林檎の果汁ジュースを注いで売りさばき。みるみるうちに用意していた食糧が数を減らしていき比例して懐のお財布が潤っていく。

「カレーパン十個追加ぁ!」
「あと飲みモンも注いだれー」
「はいいぃぃ!」

日が頂点に達してから正午をだいぶ経ってからの開店であった筈なのに。日が暮れるまでまだ充分余裕ある時間を以てして完売に達成した。

「お買い上げあざーっしたぁ!」
「ああありがとうございます‥‥!」

最後のパンも無事 客の胃袋へと口に運ばれる後ろ姿に向かってお辞儀して。他の周りの露店商人たちにもお近づきにタダでくばった。商売魂に共鳴してか周囲の店から拍手を送られる。

撤収!
「ほいさー」
「ちょッ早すぎますってえーっ!?」

今日の稼ぎを終えたのだから他の皆さんにご迷惑かけないよう速やかに立ち去るのみ!
迅速にテントと調理器具を畳んでしまい貨幣を詰めた大袋をモヴウに手渡してついでに荷車に乗せる。この日のナマエたちの鬼気迫る売店様子を傍で見ていた商人たちは後にこう語る「熱かった──あんな暑っ苦しい商売仇はそうそうお目にかかれないっていうか二度と近くで店開きたくねーわ」と唸った。


<警報アラーム>というユグドラシルには無かった──近くに危険が迫れば報せてくれる生産魔法技術がこの異世界に普及してる。
拠点から出発して街道に着くまでモヴウから簡単にではあるが情報を聞かせてもらった。モンスターと遭遇しなかったのはレベル差を察知したのであろう雑魚モンスターが一匹すら影も形も見せなかったのは拍子抜けであるが。他にも家畜の牛の乳が良く出てくる魔法とか、美味しい闇鍋が作れる魔法なにそれ誰か使える人いないか住民の皆さんに聞いてみよ!

「んんんー追手は来てねェなー」
「残念そうにしない今は安全が一番」

露天商通りから一目散に森へと入り。緑にかこまれた周囲をぐるりと見渡すも生き物の気配すらしない。ホントにモンスターいるの?あれだけ繁盛してたウチの店を不審に思ってどなたか追手来るか、ちょっぴり期待してたんだけどー偽名も商売に熱が入っちゃって目まぐるしく売りさばいてたから使う時なかったわー。

「もうあそこじゃ商売は出来ませんのでそこ、ちゃんと覚えておいてください」
「えッ!?ど、どどどうしてですか!」

今日の売り上げ分の金銭貨幣詰めた大袋をしっかり持っててくれてたモヴウに、荷車に乗せたまま忠告する。

「あんだけ大騒ぎに店繁盛しちゃあ、私たちの顔はいやでも記憶されちゃってますよ。姿形名前を変えても犯罪者として罪は消えない。あと何日かもすればエストルグ村の壊滅は都市に王国に軍にバレて広まります。私たちは影の存在だ。人の命を刈り取ったなら、影に身を隠しひっそりと暮らさなければ」

喉を鳴らし冷や汗が垂れ出る
自らの手も朱に染まった日のことを追思

「けれど永遠ではない。モヴウ村長 貴方々はついてますよこの上なく」

名前を──覚えてくれていた
けどどうしよう。なんかとてつもなくいやな予感しかしない

「つ ついて、る──?」
「こちらを」

少女の顔した魔王が悪巧みする表情でポケットからちいさな水晶を差し出す。

「こう唱えてください <転移魔法>テレポーテーション

おそるおそる受け取って。手の平サイズに収まる薄ら藍色の水晶を持ち

「テ──テレポー‥‥テーション?」

静寂。

沈黙。

無音。

もっと腹から元気よーく!
「はいいい!<転移魔法>テレポーテーション!」

瞬間 水晶が光り発し。モヴウの視界が森から光。はたと気づいたら突然草原の地に早変わりする

「ええぇえ──?こ、っここは」

新天地であるエリクシール様の領地する土地 帰ってきた?大袋と水晶だけ持って自分だけ??

「──あっはっはっは!成功だ!」
「おおうヤベエなマジでかァ!?」

次いで同じ光りが照らす魔法陣の地面からナマエたち荷車も合わせて帰還を果たす。

「どうだ村長!今のは貴方が発動したんだぞ一人で転移の魔法を使ったんだ!その水晶を使って!」

ドックから受け取った水晶!鑑定魔法で調べたらすごいことが分かった!これはユグドラシルアイテムから更に進化した改良魔封じの水晶!それがウチに群生してるなんて神の思し召しか

「第五位階の低位魔法なら使っても一度じゃ壊れない!すごいぞ用途が幅広く加工だって出来るかも知れないわくわくするよ!」

躍り上がらんばかりに喜ぶナマエと同じくハイタッチして万歳し出すアレクサンドルを前に。魔法が使えたという実感が徐々に湧いてきて高揚に胸躍るモヴウ

「す──ごい‥‥」
「まぁでも。一回しか転移魔法込めなかったんで、効果は切れてますわ」

その証拠にモヴウに手渡す際には藍色を宿していた水晶が光沢を失い。無色透明で魔力がゼロというただの水晶に戻っている。

「これで村長も、皆も影になんて身を隠さなくていい。やはり日の光のもと自由に生きて欲しい」

水晶を持つモヴウの手を取り。宣言する

「私の創る国へようこそ。貴方々が最初の住民であり新しい家族だ、どうか私に命を預ける覚悟を今ここで示してくれ」

少女の顔と孫の顔が二重にぶれて見える
手を繋いだ体温 微笑む顔を忘れた事はない。自然と両膝を地面に付け、抱えている大袋を置き、両手で握り返す力を込め

「貴女様こそ救世主──私めどもに生きる希望を授けて下さった、この命 貴女様に捧げます」
「救世主っていうのはちょーっと大げさ過ぎないか?」

繋ぐ手から水晶を受け取り。ひれ伏しているモヴウと同じく両膝を付いて目線合わし、長い年月生きた か細い背に手を添える

「ありがとう。私と私の子たちを受け入れて、ありがとう。無理を承知でこの地に住むことを承諾してくれて、変わらずの感謝を貴方々 住民全員に都度伝える」

孫を喪った心の穴は大きい──けれど

モヴウは幸福でも涙が溢れ出ることを、孫の誕生に立ち会った時のことを追思して死は別離ではなく。愛する者をいつまでも忘れなければ記憶のなかで遭えることを心底感じ入る。

「泣くな村長。まだおつかいがある」
「ハァ?」

すっくと立ち上がって着ている布シャツの裾引っ張って、モヴウの濡れる頬をぐいぐい拭う。

「先刻は追手はいなかったけど念には念を入れて、間諜とかそんな系のこずるい魔法を使われないよう一回帰って来たに過ぎん」
「ホントか?早く水晶の実験してみたくってウズウズしてなかったか」
「そうだ悪いか!だってこの水晶すんごいんだぞ!使ってみたくもなるさぁ!」

今までの鮮烈とした御姿は幻だったか?と思いたくなる、少女の歳相応に浮かれさわぐ様子に置いて行かれる感半端ない

「てことで引き返します」
「またぁああっ!?」
「そうとも村長!まだ花を摘んで?買って?来てないじゃないか!まずいぞ夕飯の時間に遅れる!そう!往くとすれば海とかが良い!とても良い!ちょっと海岸に近い花ある場所とか知ってる!?ぜひ教えてくれ!」

息つく間も惜しい荷物も一緒くたに全体魔法で転移発動する。

「帰してくだあああああああああ」

絶叫は留守中の家族誰の耳にも届かず。


これこそ冒険!




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