015


ナマエの自室というのは拠点屋敷内の他の一般客室と変わりない。
セトラや元エストルグ村の者たちにとっては絢爛というに相応しい、貴族然とした調度品が不自由なく揃えられ一部屋だけでも人一人住み使うには余りある。その屋敷に主人たる大部屋の専用個室があると思いきやそれがない、ナマエが権力身分の格付けをきらう傾向にある為だ。

移住を望んだエストルグ村の全住民へ、屋敷に住んでも構わないと提案したが。畏れ多くも救い人とその従者たちと同じ屋根の下 生活するには流石に気が引けると丁重に断りを入れ。それを見越してか日照りが多く射し込む南の区域に<秘密裏の小屋>グリーンシークレットハウスマジックアイテム──魔法で作られたコテージで、小さな外見とは裏腹に住む家族人数分に合わせて家の中が充分に広くなる。可能な限り元の村に住んでいた家々と同じ配置で、自給自足農業の仕事も村人自ら買って出てくれたお蔭で滞りなく移住を完了し終えた。
獣人ビーストマンたちの住む東区画とを区切り、拠点中心にシンボルとしてそびえている巨木近く南西にナマエたちの屋敷があるので、全家屋から屋敷の位置が一目瞭然。農村として機能するよう整えられた。

三十円ガチャで日用品アイテムをゲットして揃えただけ。であるも、持ち前の凝り性な性分で贅沢な寝床に相応しい部屋をとイメージして装飾した自室で。ナマエはソファーに座りながら やわらかいクッションへ寝転がりたい衝動を抑え、ド腐れセレブから強奪した書類の全部に目を通す。

「つくづく腐ってる」

村長からこの世界の文字を、基礎の五十音の書き方から教えてもらい。自力で一文字ずつ翻訳して記述の内容を解読したところ。
エストルグ村の村人たちが如何にひっ迫した不経済に置かれていたことを明確に示し、元領主がマジ救いようのない能無しであり引いてはナマエたちの拠点をも領地としているリ・エスティーゼ王国が破綻寸前の権力争いの最中であることを村長やカーンからも聞き及んだ。

「あ。そうだカーン、君の名前って娘のカーリィナとかぶるから苗字の方でベイって略称していい?」
「あぁ‥‥別に構わんが」

村長はお歳もお歳だし。居住区の家に帰ってもらって部屋を退出しており、この場にはカーン改めベイとカーリィナが書類整理を手伝ってくれている。
主人の良き配慮にカーリィナは心中でガッツポーズする。

「国王を中心となってるも六大貴族?の派閥が分かれて徴兵の無駄、増税の無駄、資源土地の無駄。それに加えて隣りの帝国と戦争し続けているとは──ご飯おいしくなさそう」
「そこ心配するとこか。」

座ったまま組んだ両手を額に当て、落胆にがっくり肩を落とすナマエの心配事が飯だとは。ベイは冷静にツッコむ。

王国あちら私たちこちらの戦力差については、まぁ肌身で感じてくれたように万が一でも負けはせんだろう。そんで?ベイの仲間はこれからどうしたいんだっけ?」

なにもベイを含む獣人ビーストマン全二十四匹が皆同じ考えでウチの拠点にきて大人しくしてるわけではないだろうし。一応彼らのリーダー?ってことになってるベイを部屋まで呼んだのは要望を聞いてみる為でもある。

「出来ることなら力を貸してくれ。他にも同族が奴隷にされて各地に売り飛ばされている、彼らを解放するのに今以上の好機は
やだ

は?

気持ちいいくらいの笑顔で返されて
初めて遭った日のデジャヴが再開

「もし獣人ビーストマンの仲間を救って?それからどうする、私の領地に迎え入れようってまたお願いを重ねるつもりだったか?頼み事ばっかりだなぁ君たちは」

ソファーから腰を上げ面と向かうナマエが、身長勝る自分よりも大きく感じ見えてどう言い返そう言葉が見つからない

「ん?その要求を聞き入れる私たちになにか義理はあったかな?ないだろう、無いだろうとも。君たちはただここへ移り住んできた私はそれを受け入れたに過ぎない。何事もギブアンドテイクさ、ベイ 私になにかして欲しかったら相応の対価が必要だ」

──確かに虫のいい話であった。どうやったってコイツには口でも勝てない自分の不甲斐なさに嫌気が差してくるというもの、ここでの暮らしを続けられるのも絶対とは言い切れん

「な、何を‥‥すれば」
働かざるもの食うべからず

そこからナマエの行動は早かった。

「はーいっ!獣人ビーストマンのみんなー今日から一日ごとローテーションでお仕事してもらいまーっす!さぼったらご飯抜きでーす!タダ飯なんてウチにはありませんからねっ!皆仲良く共同生活ですよー!」

まず住人の皆さんとご挨拶!これ基本!

畑仕事に勤しんでいた人間の皆さんと獣人の何匹かが、頭にハテナ浮かばせてお互い会釈する。

「はっ、はじめまして‥‥?」
「コ コンチワ?」

たがやせい!

「蒔きの調達!領地拡大!インフラ整備!魚人マーマンたちと一緒に森をばったばったなぎ倒せ!」
「こちらをお使い下さい」
「はあ──?」

魚人マーマンたちから斧を受け取って不思議そうに首をかしげる。

なぎはらえ!

「お勉強!これもまた力よ!知識を広げろ君らは無知であるが故に一度ドン底にまで落された!君らに足りないものは知恵だ!生き抜く術を学び、二度と同じ失敗は繰り返さないようあやまちから成長するのだ!」

屋敷の図書室内でカーリィナやメイドの教鞭のもと、座学に引き込まれてもうなにがなにやら。

ここテストにでます!

こっそり抜け出して牛舎小屋から鶏の一匹を丸呑みしようとするアホを制裁!

「晩ご飯抜きぃ!」

アホの獣人ビーストマン用に用意していた木製の食器を投げつけて、ご飯よそいませんよ!という意思表示。この世の終わりのようショックで土下座して謝ってきても許すまじ!

「さて──あとは〜」
「まだあるのかッ!?もう充分だろ!」

ここまで同族の成り行きを一緒に見ていたベイが辛抱たまらんと乗り出す。

「当たり前だろ〜?君らは客人じゃない、ここに住もうって言うならここのルールに従ってもらうぞ全員漏れなく。強制はしてないしウチから出てっても構わないし。一歩外に出たらどうなるかなぁ?まーた人間たちの数に圧倒されてまーた捕まっても今度は知らんよ?私の往く道を邪魔さえしなきゃあとはどうでもいいし」
「ぐうッ‥!!」

あ 悪魔だコイツ!!
でも言ってることは至極正しい。食糧を育てないと食べていけないし、人口増加に伴った領地を広げ、かしこく生きていけるよう学び、実りある生命に感謝して食べる。何事も過不足なく与え返ってくる。これがコイツの創ろうとする世界だ

(もはや反抗の気力さえ湧かん)
「せんせーっい!オネシャス!」

ベイが反論してこないのをいいことに呼び出したのは

「応」
「ッギャアアアア!!」

獣人ビーストマンなんぞ比ではない上位クラスの魔獣が現れてきた!

「えっベイ?そんなキャラなん」
「おいおいっオメェさん今からそんなんじゃァ身が持たねェぞ」

声の調子であの大男──息子であり従者の一人であるアレクサンドルと直感して。何なんだ!?これが本当の姿というのか!息子って子どもッ??あれコドモってなんだこの魔獣が従者であってナマエが主っておかしいだろう!?

「あ。ちょい失礼なこと考えたなコラしごいちゃってーアレクーあとそこのアホもつまみ食いしようとしたー」
「応さ、大将暇がねェって言うし。身体訛ってしょうがなかったんだァ」

ベンとアホの首根っこ掴んで広い草原まで引きずっていく息子を見送り、元気に手を振る。

「ッ待てぇい!こここれは何の意味がある!?説明を要求するぅ!!」
「ごべんなざい〜!!もうじまぜんんんん!!」

とってもいい笑顔で返答。

「いくら回復薬で身体の傷は治しても、体力までは元に戻せんよ。君たちずっと腹減りの生活で筋トレもしてなかった。これはリハビリさ実戦の勘も取り戻せて一石二鳥だよーお得だよー」

アレクのストレス解消にもなるし正直君たちがウチにくるってわかった瞬間カモがネギ背負ってやってキターて思ったわぁ笑

つまりこの上位クラスの化け物と戦えってことかーッ!!

「安心しろって〜。手加減はするっ──どんぐらいセーブしときゃいンだ?」
「そこらへんに転がってるマシュロで回復させたら大丈夫っしょ?」
「うおおお!!」

処刑宣告もいいとこ。今後こそアレクサンドルに連れていかれる新たな家族を見送って。安心しろ骨は拾っといてやる!サムズアップしてから別れを告げる。いやホントいざとなったら拠点のそこかしこに転がってる分裂したマシュロで回復できるんで安心してね

「私も、これから働かんと」

でっかい溜息をつくのを許してくれ。
私も君たちを養うのに
他の捕われている仲間のことも考えてる

それよりもまず

ポケットから取り出す──異世界の貨幣


「お金がない──!」


嗚呼憎むべきは資本主義!!




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