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エストルグ村の全体総面積六平方キロメートルにして南端の小高い丘から北へとなだらかな平地に広がっている。丘を砦として防護柵が屋敷を取り囲み、次いで西に
獣人捕虜 総勢二十四匹を収容している麻薬栽培場。北東に村人たちの集落。この三つが個々に点在して村として地形が成り立っている。
以上の報告を先遣隊としておつかいを頼んだ
魚人たち六匹の成果によって、地図作成も容易に完了する。
因みに召喚に応じ晴れて初陣を完勝飾り、拠点に帰ってからすぐに名を授けた。スペイン語の数字にならい「ウーノ」、「ドス」、「トレス」、「クアトロ」、「シン」、「セイス」と響きが良く呼びやすい名前。を晴れて六匹が正式に臣下として、実に見事な働きぶりを見せてくれている。
先ず斥候として村人たちの現在置かれいる状況を知りたく。ご飯と治療を餌に釣ってみようと見張り番を眠らせて偽装工作してからお伺いしてみたものの、まぁ予想はついてたが閉鎖的でわびしく、柔軟な思考を麻痺させてしまっている。世界はもっと生命で満ち溢れ輝いているというのに
あの狼男くん?カーンだっけ。彼と逢えたのは良い収穫だったと思っておこう
拠点へと種族問わぬ医療団一行が帰還し、僅かしか残らなかったが炊き出しスープやらを
魚人リーダー・ウーノたちと食事をともにする。
「ご苦労だったねウーノ、ドス、トレス、クアトロ、シン、セイス。食べ終わったらゆっくり寝ていいよー」
労いの感謝にそれぞれの頭を撫で、働きを褒める。照れくさそうにほっぺかいちゃったり、丸まって顔隠したりしてかわいいな?これからいっぱい褒めて育てるからそのつもりで!
「そんで?相も変わらず俺単騎で突っ込んでいいってか」
カーリィナの代行で拠点防衛に徹してくれていたアレクサンドルが、同じテーブルに座りパン食べながら問いてくる。お前留守番してただけだろー?
「んーそれは変わらないけど、現地で協力者募ったからその人らと行くことになったわー」
「あんっ!?楽しみが減っちまうじゃねェか!」
「あくまで隠密なんだからな?息子よ そこちゃんと分かってる?」
ぶーたれる息子を宥めるってのも親の務めかー。なんか先が思いやられるこんな風に設定してたっけ
「あの畜し、いえ
獣人に貴重な霊薬を下賜なされて良かったのでしょうか」
「(ん?なんか言い間違えた?)彼なら上手く使ってくれるさ、出来る雄の瞳をしてる それに運も良いとみる、ああいう同族意識の高い子は仲間を放っておかんだろ」
飲み水をコップについでくれるカーリィナに感謝述べ、喉を潤してからひと息。状況を整理する。
「日暮れとともに決行するが。その前に確認しておきたいことがある」
真っ直ぐ息子へ視線合わし
「アレクよ!なぜ私の念話が聞こえたんだっ!」
「ええぇー今更かよ」
解せん!ああ解せんとも<
念話>持たないアレクに初陣の事後報告してた時の私の念話がどうして聞こえた!?戦闘時には連携を発揮するのに役立つが、常に心の声パッカーン開き状態なのか詳しく知る必要がある!一応私も女性であるという意味で!プライバシー保護!
「なんか集中すっとつながる?大将との距離が近いと何考えてっかなんとなくわかるっつーか100パーじゃないがな。これって以心伝心てやつ?」
気持ちいいぐらいの笑顔で言っても曖昧すぎて解らんわ!
「くうぉぉおおぉ〜!」
「ほら、今みてーに凄ェ悩んでるのとか」
魚人たち全員が心を同じくし
(いや‥‥これは誰がどう見てもわかりやすすぎる──)
「つまり常に聞こえるわけじゃないんだな!」
「応さ?大事な大将じゃねェかそこまで詮索する趣味はねェ」
えっウチの子イケメン──?
高鳴る胸の鼓動にちょっと感心もかねて息子を自慢したい衝動に駆られるが
「アレク私の裸見たじゃん!」それって異性として魅力がないって言いたいのかー!
異世界に転移して初っ端に全裸さらされた羞恥心が、今になって甦ってきた。黒歴史消し去りたい!
衝撃の激白に
魚人全員が匙を机やら床に落とす。
「おいおいっ落ち着けって、主に欲情する従者とか在っちゃいけねェだろ。充分いい女だってのは俺が一番知ってっから自信持て」
「やだもうイケメン!」なにこれ公開処刑!顔から火が出るって本当だよみんな!
顔を真っ赤に蒸気すら噴きだして、両手で視界を覆うナマエが見てないことをいいことに。カーリィナが絶対零度の絶許オーラ纏い眼光で射抜かんとしてる。
(何だこの状況‥‥?)この場で一番まともな思考が出来てるのは
魚人たちだけである。
食堂のドアからノック音。
皆が視線を移し主人たるナマエが気を取り直して返答する
「いいよどうぞー」
「失礼します」
メイドの一人が畏まり食堂へ入ってくる、昼を目前にした現時刻起きてきたフェリシアがドア越しから顔をのぞかせて中々入って来ようとはしない。かわいいは正義
「やぁおはよう」
「ぉ‥、おはよう‥‥ござい‥ます、」
「そんなにかしこまらなくっていいさ」
椅子から立ち上がりドア前まで歩み寄る。お互いドア扉を挟みナマエは屈んで目線を合わせ
「よかったらこの子と友だちになってくれるかな?」
視線下までかるく握った手を差し出し、眷属である我が子を呼び出す。ひらかれる掌から水が湧きでて人型に形成していくのをおっかなびっくりするフェリシア
身長二十五センチ。全体を空気で膨らんでいるかのような首のない丸顔、間接すらない短い足とは不釣り合いに長く膨張してる腕。ぽっこりお腹の全身がぷるぷる触感のスライム。
異形種である
<水液粘体>でハニワを想起させる黒い丸の瞳が浮き出てフェリシアと目を合わせる。その愛らしいフォルムに明るく顔をほころばす
「わぁーっ!」
「名前はマシュロっていうんだ。お友だちになってくれるかい」
「うんっ!」
ぬいぐるみサイズのマシュロをやさしく抱っこして、液体ゆえ体が透けて見えぷよぷよ感を不思議そうに指でつついたり気に入ってくれたようだ。
言葉発せぬ、また戦闘力皆無の私の作成したNPCだが回復専門のエキスパートとして重宝している。体を形成してる液体が<
生命力持続回復>効果を有する霊薬で構成され、飲んだり、浴びたり、患部に直接浸すことで時間経過とともに回復できる。種族問わぬ医療団の際にも同行してた影の功労者である。
ユグドラシルアイテムがこの異世界ではどういった情報認識されているのか、判断し難い現状であるため回復アイテムの主流である
水薬の使用は極力避け、要らぬ詮索をされないよう村人たち診察を受けてもらった人には<
生命力持続回復>霊薬を染み込ませた包帯やガーゼで、目くらまし出来たという算段。更に毒治癒効果も有しているので今頃カーンが仲間たちに分け与えてることだ。
フェリシアとセトラさんの前で作戦のことは一切他言無用と臣下たちにも言い渡してあるし、目線だけを合図に送りアレクたち全員が頷いたのを確認して。
「お母さんのとこへ看に行こうか」
不安はまだ拭いきれていない瞳だが、強い子だ。母親の傍に寄り添ってくれるだろう
君らを守るよ
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